ラヴィアン王国物語
 ちり、と炎がアイラの服の裾を焼いた。むっとしてアイラは火の精霊を睨んだ。

『ねえ、こいつってさ、アタシら消されちゃうよね』

『うん。やばくね? やっぱそう思う?』とまたヒソヒソやり始めて、火の精霊はアイラから遠ざかって、飛んで消えた。

(な、何だったのだろう……でも、火もこれで消えるかな)

 アイラの眼の前で、宮殿の一角が瞬く間に燃え落ちた。呆然と座り込む前に、見慣れた長身が飛び込んで来た。アリザムが黒駱駝に乗って進んできた。

「ラティーク王子は? も、燃やすってさっき」
「白駱駝で一番に逃げた。逃げ足が速い特技を今こそ生かしてもらわねば。今頃、砂漠に飛び出している頃でしょう。私もすぐに合流する」
「どうして、暗殺」咄嗟でモタモタ喋るアイラにアリザムは素早く返答した。

「想定内だ。ラヴィアン王が伏せった事実が広まれば、他国も黙っていない。機密が他国に漏れた。七年。ラティーク樣の心痛お察しして、余りある」

 アリザムの主君命の演説はこの際聞き流すとして。

(七年間

 ついさっき、考えた月日。これは偶然? コイヌールが消えたのも、七年間の間。同時にラヴィアン王が倒れたのも、七年前……?)

 思考の途中で正面から白駱駝が飛び込んで来た。黒いマントを翻して、華奢な白駱駝に跨がったラティークだった。


「アリザム、第二宮殿に残っている人間はいないのだろうな!」


「私と、アイラ殿が最後です。全てとっくに逃がしました」

 ラティークは「そうか」と呟き、燃え落ちる第二宮殿を涙目で見つめた。

 横顔は決意の滲み出た凛々しさに満ちていた。

 ラティークは靜かに告げた。視線は立ち尽くしたアイラにだけ、向いていた。




「これで先手は打った。みすみす殺されてなるものか」

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