ラヴィアン王国物語
★☆★
「僕に似た背格好の死体は用意したか。アリザム」
「はい。腕輪を嵌め、王子の衣裳を着せた�人形�は火の精霊が焼き尽くせば、ラティーク王子だと疑うべくもないでしょう。誰もが王子ご崩御と悼みます」
「焼け死んだ彼に、神の微笑みがあらんことを。予定より早いが、手筈通り行こう」
ラティークが指示を繰り出したところで、ようやく正気を取り戻したアイラが「ねえ!」とラティークの服の裾を強く引いた。
ぐらりと上半身が揺れ、ラティークは手綱を握り直した。
「国の事情に巻き込んで済まないが、一緒に来てくれないか」アイラは戸惑った様子で、口答えした。
「ラヴィアン王国を出るの? 王子の貴方が? ふざけた魔法で誤魔化せばいいじゃない、怒ってるあたしの気持ち、分かってる? 貴方、世界で決めた約束を破った上、国を捨てようとしてるのよ! そんな身勝手な貴方と一緒に? 冗談じゃない」
ラティークは炎に照らされた頬を向けた。
「全く以て言う通りだが、きみを置いていくわけにも行かないだろう」
アイラは何故か口調を変え、口をつんと尖らせた。
「否定、しないの? 文句、言わないの? 必要だった、仕方ないって。いつもなら強く言うし、唇の魔法で誤魔化すはずなのに……調子狂うな……もう」
(やれやれ。アイラの内の僕はどんな最低野郎だ。出会い頭のからかいの禍根か)
「『精霊との契約には、必ず大人の精霊と契約すべし。自我が不安定な子供精霊は、まだ理性がないばかりか、形成に影響を及ぼすからである』知っている。だが、風の精霊は減っている。僕は風属性を持っているから風の精霊のシハーヴと同調できた」
ランプを撫でた指先がつんと冷えた。
(覚えている。シハーヴが転がり出て来た時のランプの無機質音と同時に、感じた不吉な�何か�。最後に現れた緑色のチビ虎。古代文明の希望の筺のようだった)
「水と風の精霊は激減し、土の精霊は地中深くに潜り込んだ。光に至っては、もはやいるかも分からないそうだ。水は愛情、風は過去と信頼。しかし増える精霊が、戦いと死を導く火と闇だけでは余りにも救いがなさすぎる。これが僕たちの世界だよ」
「ヴィーリビアには水の子はたくさんいるし、皆仲良く過ごしているのに」
「なら、どうして、水の精霊を自由にしない。独占欲からだろう?」
「違う……っ」アイラの言葉に構わず、ラティークは畳み掛けた。
「きみの国は、水に恵まれていて、砂の大地の人間など見向きもしなかったんだ」
唖然としたアイラの表情にこれ以上の説得は無用、とラティークは手綱を引いた。
(この位、突いておけば、引くに引けなくなるだろう。一緒に来て欲しいんだ)
ラティークの腹黒い思惑通り、アイラは腕を伸ばして駆け寄った。
「待って。一緒に行く」素直に縋った柔らかい体を抱き上げた。隣に座らせると、ラティ
ークは砂漠に集まった人々に振り返った。
「体勢が整い次第、ラヴィアン王国を攻める。そのために、僕は一度ここを離れる」
「僕に似た背格好の死体は用意したか。アリザム」
「はい。腕輪を嵌め、王子の衣裳を着せた�人形�は火の精霊が焼き尽くせば、ラティーク王子だと疑うべくもないでしょう。誰もが王子ご崩御と悼みます」
「焼け死んだ彼に、神の微笑みがあらんことを。予定より早いが、手筈通り行こう」
ラティークが指示を繰り出したところで、ようやく正気を取り戻したアイラが「ねえ!」とラティークの服の裾を強く引いた。
ぐらりと上半身が揺れ、ラティークは手綱を握り直した。
「国の事情に巻き込んで済まないが、一緒に来てくれないか」アイラは戸惑った様子で、口答えした。
「ラヴィアン王国を出るの? 王子の貴方が? ふざけた魔法で誤魔化せばいいじゃない、怒ってるあたしの気持ち、分かってる? 貴方、世界で決めた約束を破った上、国を捨てようとしてるのよ! そんな身勝手な貴方と一緒に? 冗談じゃない」
ラティークは炎に照らされた頬を向けた。
「全く以て言う通りだが、きみを置いていくわけにも行かないだろう」
アイラは何故か口調を変え、口をつんと尖らせた。
「否定、しないの? 文句、言わないの? 必要だった、仕方ないって。いつもなら強く言うし、唇の魔法で誤魔化すはずなのに……調子狂うな……もう」
(やれやれ。アイラの内の僕はどんな最低野郎だ。出会い頭のからかいの禍根か)
「『精霊との契約には、必ず大人の精霊と契約すべし。自我が不安定な子供精霊は、まだ理性がないばかりか、形成に影響を及ぼすからである』知っている。だが、風の精霊は減っている。僕は風属性を持っているから風の精霊のシハーヴと同調できた」
ランプを撫でた指先がつんと冷えた。
(覚えている。シハーヴが転がり出て来た時のランプの無機質音と同時に、感じた不吉な�何か�。最後に現れた緑色のチビ虎。古代文明の希望の筺のようだった)
「水と風の精霊は激減し、土の精霊は地中深くに潜り込んだ。光に至っては、もはやいるかも分からないそうだ。水は愛情、風は過去と信頼。しかし増える精霊が、戦いと死を導く火と闇だけでは余りにも救いがなさすぎる。これが僕たちの世界だよ」
「ヴィーリビアには水の子はたくさんいるし、皆仲良く過ごしているのに」
「なら、どうして、水の精霊を自由にしない。独占欲からだろう?」
「違う……っ」アイラの言葉に構わず、ラティークは畳み掛けた。
「きみの国は、水に恵まれていて、砂の大地の人間など見向きもしなかったんだ」
唖然としたアイラの表情にこれ以上の説得は無用、とラティークは手綱を引いた。
(この位、突いておけば、引くに引けなくなるだろう。一緒に来て欲しいんだ)
ラティークの腹黒い思惑通り、アイラは腕を伸ばして駆け寄った。
「待って。一緒に行く」素直に縋った柔らかい体を抱き上げた。隣に座らせると、ラティ
ークは砂漠に集まった人々に振り返った。
「体勢が整い次第、ラヴィアン王国を攻める。そのために、僕は一度ここを離れる」