ラヴィアン王国物語
(本当にいた)


と驚きを隠せないアイラの前で、爺さんはゆっくりと喋った。

「風のォ小僧ォやないかァ〜。人のォ就寝邪魔しよってェからに。寝ろォ、寝ろォ」

「じーさん。砂、動かして。ぼくはまだ飛べないのに、ヒドイ主人が無茶を言う」

「おまえさんがァ船をォ操ればァえェえ話やァ。風は押さえられるがのォ〜」

「精々敷物くらいしか浮かせないよ! 絨毯一枚がせいぜいだ」

「それでええわ。座れりゃ運んでいけるやろ。ほな、何かないかねェ。おやァ」

 毛むくじゃらがアイラを見て、「水のオンナは美人やねェ」目をぱちくりした。アイラもぺこりと頭を下げた。ラティークも軽く頭を下げた。

「就寝中すまない。こいつが未熟なために、迷惑を。アリザム、じろじろ見るな」
「ええよ、ええよ。風は儂と、この小僧しかここにおらんようだ。皆散ってしもた。昔は
ようゥ、土をバラして、風の子らが遊んでおったが、誰も砂漠に寄りつかん」

 どこからか、汚れた大きな布が飛んできた。見覚えがある。

「第一宮殿の、玄関の絨毯の一部です。またルシュディ様に喧嘩を売りましたね」

 アリザムが冷静に答えた。まさかと思いつつ、絨毯に足を乗せた。

「ほないこか。本来は金取るんやけどまあ同じ風のよしみでな。次回からはいただくで。
そこの光の兄ちゃん、覚えとき。たんまり払ってもらうでぇあんじょうきばりや!」

 風の爺は商談口調で早口になって、砂漠に潜っていった。

 座って目線が下がるなり、ハイエナたちがニヤニヤとこちらを見ている光景に気付いて、アイラはラティークの腕を突いた。

「ねえ、ラティーク。あたしたちを狙ってるのかな。見て。たくさんいる……」
「ああ、ハイエナ。大丈夫。あいつらは死体以外には食いつかない」

 絨毯がのそりと動き出した。と思うと、砂漠の砂が一気に流れ出した。絨毯は砂波に乗って、まさに波乗りの如く、進み始めた。

「すごいな、おまえ。ちゃんと浮いてる」
「話かけんな! 大人なら、空を飛べるんだけど、無理だ。じいさん、ちょっと、早!」

 絨毯は砂すれすれに浮かび、地表から噴き上げる風の威力で進んでいる感じだ。
 風の爺さんが砂漠に風を自由自在に吹かせて、帆を受けて進めていたのではない。

(風の魔神の力で進んでいたんだ。あの砂船。そうよね。海の船も風で進むし)

「もうちょっと右だ。爺さん、西方面へ」絨毯は夜の砂漠を滑るように走って行った。

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