ラヴィアン王国物語
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 アイラの手をしっかりと掴んで見上げると、宝石箱をひっくり返したような星空がラティークの頭上を埋め尽くしていた。遠くから届く未来の光だ。滑るように走る絨毯に乗った時より、月は遠く傾き始めた。
「皆、助かるよね」アイラがぽそりと洩らす。返事の代わりにアイラの手を強く握ってやり、しっかりと頷いて見せた。アイラはほ、と頬を緩めた。

「レシュも、戻って来るよね……」

「ああ、きみの親友は変わっちゃいない。兄貴も大丈夫。信じよう」

 アイラは瞳に安堵の光を滾らせた。

「怖いことなんかないね。ラティーク、大丈夫って言ってくれたもの」

 あけすけの好意にラティークは鼻の頭をかいた。相変わらず清々しいほどの愛情だが、多分アイラは無意識。ラティークが「好きだ」と言ったら「何だって? 魔法は要らない」と鼻の頭に皺を寄せるに決まっている。

(あ? ん? ——好きだって言ったら? 言おうとしているのか? 王子たる僕が)

 ……調子の狂った思考を振り切った。ぞろぞろと第二宮殿の人々と、ラヴィアンの難民が列を伸ばしている様子が視界に映った。

「難民が後を絶たない。水がないと、人は生きていけない。太陽と、水、風。どれが欠けても、どこか人はおかしくなる」

「どうして、水と風の精霊がラヴィアンにはいなくなったの?」


 理由は複雑過ぎて、どこから伝えようかとラティークが悩む前で、博識のアリザムが代わりに答えた。

「勉強嫌いのラティーク樣は存じ上げない話でしょう。
かつてラヴィアンの世継ぎは必ず四人と決まっていた。
精霊契約は、一人につき一つの精霊しか契約ができない。
これを『世襲』と言います。四人で四元素をしっかり支配していたわけです。

かつて王子は火の王子などと元素名で呼ばれた。全ての元素を支配下に置いたのです」

「へえ。僕も知らん話を。勉強もしておくものだな」

「王子暗殺事件の多発により、契約を継ぐべき王子がいなくなった。精霊歴史学の暗黒時代到来ですね。以降、欠けた元素をどう補うかに焦点が置かれたのです。そこで目をつけたのが�闇元素�希望を失ったかつての王族は自ら闇に染まる同化を選ぼうとした。人が闇を選んだ時、一番に�水�、そして�風�が逃げたと聞いています」

 
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