ラヴィアン王国物語
「おい、そこのチッパイ王女。甲板をウロウロすんな。商品として売るんだ。頼むから、
そのささやかな胸でふんぞり返ってくれるなよ」

「まあ、あたしの大切な可愛いチッパイに何をいちゃもん。
でも、困った。スメラギ。奴隷ってどういう風にすればいいのかな?」

「俯きましょう、そんな冒険で活き活きしたお顔は駄目です。
そうだわ。ストーリーを作りましょ。姫様は、今から家族と別れて、
ラヴィアン王国に買われるのです。もう、居場所がない。
ちょっと落ち込んでいますのよ。俯き加減でひっそりと」

 やってみようとアイラは顔を下に向けたが、無理。元々落ち込むには適さない性格だ。
俯いた拍子に、今度は海の色が気になった。いきいきと聞き返した。

「ねえ、見て。表面は明るいのに、水中は真っ黒。なに、あれ?」

 メインマストに寄り掛かり、干し肉を齧っていたスメラギが、言葉に反応した。

「闇の力だ。やっただろ、精霊自然学。世界は精霊で出来ていーる。火と、水と、風と、
土と、闇。僅かな数の光。彼らが集まって、世界を作っているのであーる。ほら、船を寄
せるから、引っ込んだ、引っ込んだ。帆を張り替えなきゃなんねェのさ」

 甲板に海賊が溢れ出て来た。「姫様」とサシャーが背中を押した前では帆が張られ始めた。
縦型帆が引き上げられ、パズルの如く編み込まれた船のロープはメインマストに固定され、
三連帆は大きく羽ばたく鳥のように翼を拡げ始める。

「行くぞぉ!」と掛け声とともに大きく帆が翻った。海賊マークを隠した商人の帆。
 海賊スメラギの船は、これから貿易商人としてしゃあしゃあと入港する。
 海賊船長及び司令官ともなれば花形だが、スメラギには恋愛のレの字もない。

「ねえ、サシャー。海賊の男はもてるはずよね。不憫なヤツ。ラヴィアンの王子のエキス
でも飲んだらいいのに……うん、ラヴィアン王国、ね……そう、ラヴィアン……」
 敵国の名前を口に出すなり、怒りの炎がアイラの裡でめらめらと燃え上がり始めた。


☆☆★
 ヴィーリビア国の象徴とも言える水の神殿では、秘宝コイヌールを持つ水の精霊王ウン
ディーネを祀っている。しかし、秘宝コイヌールが、ある日忽然と姿を消した。

 責任を取ると、神殿の長は自らの命を絶とうとした。

 捜索が開始されるも、秘宝は見つからず。王族が頭を悩ませる中、大地を支配するユー
レイト大陸のラヴィアン王国からの知らせが飛び込んだ。


〔貴国の秘宝は我が国が預かっている。水の巫女を二十人ほど献上せよ。然もなくば、秘
宝は永久の闇に閉ざされ、光を喪うだろう。——アル・ルシュディ・ラヴィアン〕


 熱砂のど真ん中。ユーレイト大地の砂漠の大国に向けて早速、ヴィーリビア国の大臣及
び、王族は数人の巫女を派遣したが、秘宝についての知らせはなかった。
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