3回目の約束
「美海に浅井サンという彼氏ができて、安心してるんだよね。あたしが肩肘はって美海を守るとか思わなくてよくなったーって。寂しくなるかなとか思ったけど、そんなことも全然なくてさ。美海が楽しそうに笑ってるだけでもう本当に満足でさ。浅井サンが美海をないがしろにする未来も見えないし。」
「…自分の幸せはどうするつもり?」
「あたしは幸せにならなくていいの。」
「なんで?」

 真っ直ぐすぎる目が、明季を刺す。目を逸らした明季の負けだ。それでも、真っ直ぐになんて返せない。

「…なれるはずないじゃん。」
「…なれるかどうかじゃなくて、なりたいかどうかじゃねーの。」
「それは、選ぶ方にいる人間の感覚だよ。選べる立場じゃないんだからさ、こっちは。」
「…じゃあ、選べる側の人間だったら、幸せになりたいって思うんじゃねーの、もし仮に明季が選べる側の人間だったら。」
「…それでもきっと、あたしは選ばない。」

 『もし』、そんな仮の話ですら、幸せを望めない。幸せって何だろう。

「じゃあ、幸せを選ばなくていいから俺といることを選んでよ。」
「…なんだそれ。」

 思わぬ返しに、声が震えた。洋一の言葉には、魔力がある。一瞬だけでも、信じてしまいたいと思わせてくれる力が。

「…無理。」
「なんで。」
「なんでじゃないよ。あたしの話聞いてた?」
「聞いてた。それでもやっぱり明季がいい。」
「意味不明なんだけど。あのさ、見せたからわかると思うけど、傷だらけだよ。犯されたのだって1回じゃない。拒んだ日は容赦なく殴られてる。ねぇ、それでもいいって本気で言える?」

 いいわけがない。いいって言われたいわけじゃない。むしろ、いいなんていう洋一を信じられない。

「それは全部、明季のせいじゃない。」
「そうだよ。でも、汚いのはあたしだよ。」
「…明季、今から触るから。さすがに怒る。」

 そう言って、洋一が明季の腕を引いた。
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