3回目の約束
「汚いって思ってるのはお前だけだよ。俺は思ってない。触りたくて仕方がねぇよ、いつもどれだけ我慢してると思ってんだ。」
「…はなし…。」
「離しません。…逃がすかよ。」

 明季の耳元で、いつになく焦ったような声がした。明季の心拍数が一気に上がる。

「嘘つかねぇって言ってんじゃん。明季がどれだけ人を信じられなくても、俺だけは信じてよ。松下さんを信じてるみたいに信じてほしいとまでは言わない。でも、お前が信じてない不特定多数のやつと同じにすんのはマジで嫌だ。」

 言われてみれば、当然の怒りなのかもしれない。これだけたくさんの想いを伝えてくれている人の気持ち全てをなしにしているも同然だ。

「…それは…なんかごめん。」
「なんかごめんじゃねーよ。そこだけは信じてくれないと、前に進めねぇ。」
「…信じるとか、難しいんだよ、あたしには。」

 声が震えた。いつの間にか、涙がすぐそこまで来ていた。洋一の腕の中では、感情も涙腺も緩みがちだ。

「…怖い。」

 ふと漏れた、言葉。漏らしてしまったと言ってしまった方が正しいかもしれない。明季を抱きしめる洋一の腕が強まった。

「信じることがか?」

 明季は静かに頷いた。瞬きをすると涙が零れ落ちた。なんとかして気付かれる前に涙を止めなければ。

「じゃあ、ずっととは言わねぇから今は信じてよ。この温度とか、時間とか。…約束も。」
「嘘はつかない。」
「それ。」

 明季の後頭部を優しく撫でる手に、きっと本当は全てを委ねて楽になりたいと思ってしまっている。でも、そんな自分を認めるわけにはいかない。そんなに簡単に、普通の人みたいに幸せになってはいけない。

「…ったく抱きしめるだけとかどんだけ生殺しだよ…。ほんとはキスだってしてーし。すげー優しく抱きたいのに。俺の我慢を知れよ、お前は。」
「…ごめんって。」

 抱きしめられたままこんなことを言われるなんて、なんだかおかしい。

「いっそショック療法?」
「はい?」
「俺がいかにお前を優しく抱くかわかってもらえれば、信じてくれる?」
「…絶対嫌、そんなの。」

 少し距離ができて、目が合えばさすがに恥ずかしくなった。
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