3回目の約束
「…お前、今自分がどんだけ可愛い顔してるか知らねぇだろ…ったく。」
「…可愛くないから。」
「可愛い。」
「…やめて。」
「照れんなって。」
「あーもうやめてってば!」

 洋一を叩こうとしたその手を掴まれる。びくつかない身体に、自分が一番驚いた。

「さっき抱きしめた時もそうだけど、お前、びくってしなかった。今も。…すっげぇ嬉しい。」

 自分の身体に起こる、自分の意志ではどうにもできないこと。それを洋一が変えてくれた。この事実の揺るがなさからは目を逸らせない。

「…信じる。」
「え?」
「信じるしかないじゃん。だって、これってあたしの身体が洋一を信じるって言ってるもん。何をしても、何を言われてもだめだった男の人に触られるってのを、…クリアしちゃうんだもん、ほんと。恐れ入る。」

 明季はそっと、洋一の胸に頭をもたれた。泣きそうだ。

「…なんだよ、明季。泣いてんのか。」
「馬鹿にすんな、ばーか。」
「…子供みてぇ。」

 くしゃっと撫でられる頭。それもすんなりと受け入れてしまう。身体は心よりもわかりやすく正直なのかもしれない。

「よしよし、可愛い明季ちゃんはもっと泣いていいですよー。」
「可愛いもやめて。…可愛くないし。」
「そこ反論するから可愛いんだって。」

 『可愛い』が伝わる、絶妙な力加減にもっと涙腺が緩んでいく。溢れる涙を止めたくてその胸にすがると、それを優しく受け止めてくれる。

「…焦んなくていいよ。このままでもじゅーぶん、俺得だから。」
「ばーか…。」

 甘えを許されたことなんて、ほとんどない。
 でもこれを甘えと呼ぶならば、甘えることはどんなに優しいことなのだろうと本気で思う。

「…ありがとう。」
「…いや、正直嬉しさレベル、俺の方が上だから。」
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