3回目の約束
「いっただきまーす!」

 きちんと手を合わせてから食べる。そんな姿に、どうか口に合いますようにと明季は願った。
 フォークで半分に切ると、中からトロリとチョコレートがしみ出した。上に乗せたバニラと混ざってマーブル模様だ。

「…ん、んまい!なにこれ美味いじゃん!」
「…味大丈夫?」
「すげー美味い!つーかこれ作れんのか!普通に買うものだと思ってたわ。」
「買った方が美味しいかもしれないけど、作るって言っちゃったしね。」
「いーや、明季の手作りってことで美味さ増してるから市販のものとは比べ物になんねー。」
「…喜んでもらえたようで何よりです。」

 明季はほっと胸をなでおろした。洋一はパクパクと大きな一口でファンダンショコラを頬張っていく。

「ごちそーさまでした!すっげぇうまかった!ありがとな、明季。期待して大正解。」
「期待を裏切らなくて良かった。」
「…物の期待もしてたけど、…もう一個期待してたんですが。」
「…っ…。」

 声のトーンが突然変わった。これは、明季をこれでもかと甘やかすときに出す声だ。さっきの屈託のない子供みたいな声の時とは違い、明季の背中に緊張感が走る。
 明季は膝にのせていた手をぎゅっと握った。

「…明季、これって本命?」

 ごくりと息を飲む。美海の言葉を思い出し、なんとか口を開いた。

「…い、ち…おう、そのつもりで…作った。」
「ま、…まじで?」

 明季は頷いた。顔なんてもちろん上げられない。

「でも、まだ悩んでるの。洋一のこと…嫌いじゃない、むしろ…多分これは…もう、好きってことなんだと…思うんだよ。思うんだけど、でも…。」
「…でも、何?」

 あまりにも優しい声に、明季はゆっくりと顔を上げた。きっと今、赤くてみっともない顔をしているだろうことはわかっているけれど、目を見て言わなければあまりにも卑怯な気がした。
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