ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
 ジアは龍の手に乗った。

「ジア…だめ、だ…。」

 防護魔法も施さず、かといって炎の増幅も抑えずにその炎を受けたキースは声を出すのも辛い状況だった。そんなかすかなキースの声に気付いたジアは、小さく笑ってキースを見つめる。

「…あたしは大丈夫だから。ミア、キースの治療を!」

 ジアを乗せた龍が窓を割って飛び出していく。視界がぼやけていくが、一つだけやらなくてはならない。手がかりがなければ、取り戻せない。
 キースはそっと口笛を吹いた。するとその音と風が小さな鳥の形を成した。

「ウィン…頼みがある…ジアを追いかけて。君の気配を…辿って…迎えに行く。」
「ぴぃ!」

 ウィンと呼ばれた鳥が、キースの頬に頭を寄せた。キースはその羽を優しく撫でる。

「…ウィン、君にしかできない仕事だ。…頼むよ。」
「ぴぴっ!」

 ウィンが龍の尾を追いかけていくのが辛うじて見えた。そしてキースはそのまま意識を失った。

「キース様っ!」

 涙目でミアがキースに駆け寄った。

「…ミア、ここじゃ魔法は使えない。衛兵、この重症者を医務室へ。ミアもついていけ。おれはここにいる全員が安全にここを出れるように誘導してくる。衛兵、何人か来てくれ。けが人の確認をする。」

(…泣いている場合ではありません。絶対にキース様を助けます。)

 ミアは両頬を両手で叩いた。
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