ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「ジアがそんなことを…。」
「想いは同じでも、すれ違いが生じているようにも思えた。少なくとも、私には。」
「…ねぇ、キースくん。」
「はい。」
「私、ジアを最初に抱きしめるのは、キースくんがいいわ。」

 人間でもない。魔法使いでもない。どちらの血も引く、本来いてはいいとされない存在である自分にこんなにも真っ直ぐな言葉をかけてくれる。手の届かない、雲の上にいるような身分の人たちなのに。それに驚くのと同時に、嬉しさが込み上げてくる。何としても、この信頼に応えたい。

「…私たちは、君たちの選択を応援する。だが、一筋縄ではいかないことも、君はよくわかっているとも思っているよ。だからこそ強制しない。君は君の未来を選択していい。ジアのことを想ってくれているとわかっている。だが、ジアと共に歩く未来は険しい。何を選んでも、君の自由だ。」

 最大限の尊重の言葉だ。だが、キースの答えは決まっている。向き合うときは、きっと今だ。

「…ジアのいない未来なら、いらないんです。」

 腕の火傷が治りかけていることを感じる。ウィンが呼んでいる。ここにいる、と。

「ジアに出会わなければ、とっくに捨てている命です。だから、ジアがいなければ未来もない。迎えに行きます。対策を立ててから。」
「それと、その傷完治してからな。あと食料、薬とか準備するからすぐ行けねーし。」
「クロハも来てくれるの?」
「当たり前。お前ら魔法使い3人組は痛みに鈍いからな。」
「私も行かせてください!」
「ミアはだめだ。危険すぎる。」
「治癒で役に立てます。お父様、お母様!」
「…行くなといっても行くのだろう。行っておいで。必ず帰ること。」
「はいっ!」
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