ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「あの龍ですが…。」
「うん?」
「元々人型だったんです。」
「人、か。」
「そして、おそらく自分の意志で龍の身体になることができる。」
「ジア誘拐時に、見たのだな?」

 キースは静かに頷いた。そして耳に残る『オレが貰う』という言葉。キースは左手を強く握った。

「俺の横に立っていた時は背丈もそう変わらない、緑色の長髪を後ろに束ねた男でした。それが一瞬で龍になった。言葉も発し、それは龍独自の言語ではなく…。」
「人語だった。」
「はい。そして少なくとも龍の仲間は6人。」
「その6人も龍なのかな?」
「姿が変わる姿は確認できませんでした。全員が緑の龍に乗って、飛び去っていきました。」
「…では、おそらくこの話が本当かを確かめに行くことになるだろうな。」
「え…?」

 シュリは持ってきた鞄を開けた。小さく収納されていた本が元の大きさを取り戻す。しおりが挟まっているところが自然に開いた。

「…これ、普通の文字じゃないですね。」
「ハルアトスの国の古語でもない。ヴィトックスの魔法使いたちがしたためた書だ。つまり、ヴィトックスの魔法使いたちによって作られた言語で書かれている。私も遠い昔に読んだものだ。そして、ここに書かれているのは『アスピリオ』。」
「アスピリオ…?」
「聞いたことがないな、そんな場所。」
「アスピリオ、獣の血をひく種族が生きる土地。」
「…間違いなさそうですね。」

 獣の血と人間の血が混ざっている人たちであると考えれば合点がいく。身体を変えることができるのも、おそらくそれが所以だろう。
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