ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー

「っと…す、すみません！」

　顔でばれるわけにはいかない。そこまで何度も国民の前に出たわけではないが、わかる人にはわかってしまうだろう。そう思ってジアは俯きながらぶつかった相手に謝罪した。

「…やっぱりジアだ。そんな気がしたよ。」
「キース！」

　ジアはぱっと顔を上げた。ジアの目の前に立つこの男。明るめのブラウンの短い髪。こげ茶色の瞳が優しくジアを見つめている。キース・シャンドルド。彼もまた、魔力をもつ者であるが、それを知るものは数少ない。城下に家を借りて、普通の人間として剣術や体術を教えて生計を立てている。

「またお忍び？」
「うん！こうやってみんなの顔みないと、みんなが幸せかってわからないから。」
「なるほどね。ジアらしい…と言いたいけど、今日って春の宴じゃなかった？」
「…！」
「忘れてたって顔。なんで俺の方が王城の行事に詳しいの？」
「…そ、それはあたしが未熟だから！」
「そんなことはないけど。王女としての務めは十分果たしているんじゃない？」
「だといいんだけどね…。ってじゃあもう戻らないとじゃん…。来たばっかりなのに。」
「送っていこうか？そしたらもう少しいられるよ。」
「…どういうこと？」

　ジアは理解が追い付かずに首を傾げた。するとキースはそっとジアの耳元に口を寄せた。

「…移動魔法で王城まで送るよ。歩いて、しかも裏口からばれないように戻るより時間、短縮できるよ？」
「そういうこと！ありがとう、キース！」

　ジアは満面の笑みをキースに向けた。キースの耳から頬にかけてが少しだけ赤く染まる。