ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー

「王女だって…なんだって今更、王城から…？」
「お姫様…？」

　民の視線が無遠慮にジアに突き刺さる。ジアは息をゆっくりと吐いてから、口を開いた。

「ご紹介にあずかりました、ハルアトス家第一王女、ジア・ウォリティアヌ・ハルアトスです。自ら赴いたわけではなく、招待されてここに来ました。ここの文化も、人も、産業も何一つ知りませんが、知っていきたいと思っています。どうぞよろしく。」

　ジアは深く頭を下げた。すると民衆からは拍手が起こる。

「こんなところにわざわざ…。」
「王族が来るなんて初めてだ…。」
「ようやく俺たちを認める気になったのか…。」

　気になる声も多々聞こえてはきたが、その全てを問いただすことはできないし、今はその時じゃない。

「というわけで、姫さんも一緒にメシを食う。どこか席を空けてやってくれ。」
「おひめさま、いっしょにたべましょう？」
「ぼくとも！」

　ジアは子供たちに手を引かれるままに、ついていった。その後ろにシラがついていく。

「おひめさま、こちらへどーぞ！」
「ありがとう。」

　目の前に用意されているのは、丸いパンが2つと、ミネストローネ、トマトが多めのサラダに目玉焼きだ。

「王族の口には合わないかもしれないが…。」
「いいえ。あたし、元々王族としては育てられていないので、懐かしくて好きです。こういう食事。」

　目の前に座る男にそう声を掛けられて、ジアは迷いなく答えた。すると、男は目を見開いた。

「王族なのに、王族として育てられていないのか？」

　ジアはにっこり笑って頷いた。

「皆さんがどの程度ハルアトスのことをご存知かわかりませんが…。あたしが王族としての身分を得たのも、ここ数年の話です。だから、変な話ですがあんまり気を遣われることも慣れていません。様もいらないですし、ジアとお呼びください。」

　同じ高さの土地に立ち、近い目線で物事を見て判断していきたい。それは、ジアが人の前に立つようになって決めた、揺るぎない信念でもある。