ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「ねぇ、シラ。」
「はい、何でしょう?」
「シラもランも様がつく人たちなのね。それはどうしてなの?」
「ランは、このアスピリオの長ですから。龍族の長でもあります。」
「龍族…。」
「まずはここの基本をお話しせねばなりませんね。ですが、それは長くなりますのでまずは仲間が仕事に向かうのを見届けてからでも構いませんか?」
「もちろんよ!」

 歩いて向かった先は森の奥だった。ここまで民家は続いているようだ。アスピリオはどうやらジアが泊っている家があるところを中心とし、円状に住宅が広がっているように見える。家々は木々の間に混在しており、自然を大幅に壊すことなく成り立っている。

「ジア様!」
「じあちゃんだ!」

 先ほど一緒に食事を囲んだ子供が一人いる。こんな子供まで仕事というものをするらしい。

「普段は子供たちは働きません。今日は学習所が休みなのです。子供たちは全て等しく教育を受けます。また、族によって学びが変わることもあります。」

 シラはそう言うと、集まった人々の方に向き直った。

「では、今日もよりよい明日と、皆の幸せのために。」

 シラが口笛を吹くと、風が少しずつ吹く。その風が目の前の人たちの身体を包んでいく。すると、身体が人ではなくなっていく。

「…これ…。」
「我々鳥族は、身体を鳥に変えることができます。それぞれが個人的に変えることもできるのですが、私がこうした方が皆の体力を無駄に削らずに済みます。」
「シラ、あなたは…?」
「私は鳥族の長です。今現在の鳥族の中で最も長い時間、鳥の姿をとることができます。そして、風を操ることができます。その風の力を借りて、仲間を鳥の姿に変えることも。」
「みんなは何をするの?」
「それぞれの嘴をご覧ください。」

 そう言われて、飛び回る鳥たちの嘴に注目してみる。すると、それぞれ長さや太さ、形が異なる。

「一つとして、全く同じ嘴はないと言われています。ですから、その嘴を使って様々な食料や使えそうなものを捕ってきます。魚、木の実、薬草などですね。それが鳥族に課せられた仕事です。」
「…そして、得たものはアスピリオで共有するのね。」

 ジアが問いかけると、シラはにっこりと笑った。
< 33 / 100 >

この作品をシェア

pagetop