ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「子供たちは働くというよりは、鳥の姿を使いこなせるようにする、といったほうが正しいかもしれません。基本の身体は人型ですので、誰もかれもが最初から上手く飛べるわけではありません。」
「基本は人型なのね。言われたり、実際に見せてもらわなければ全然わからないものね。」
「はい。私たち鳥族だけではなく、ここには他にも多くの種族がおります。」
「ランの龍族。」
「はい。それぞれの族の中で、最も長い時間、その血を引いたものの形をとれるものが長となります。次にその力を凌駕するものが現れるまで。」
「…なるほど…。それにしてもいいわね、鳥になれるって。」
「え?」

 シラはジアの顔をまじまじと見つめた。

「あ、もしかしたらそれによって困ることもあるのかもしれないし、あったのかもしれないけれど…。でも、純粋に、その翼で羽ばたいて自由に飛べるって、なんだかいいなって思ったの。」

 ジアは飛ぶ鳥たちを見つめながらそう言った。自由に羽ばたく鳥たちが、木々の隙間から漏れる光を浴びて輝いて見える。

「鳥族に生まれると、必ず鳥の形をとることができるの?」
「そうですね。ただ、個人差はあります。本当にわずかな時間しか鳥になることができない者もおります。」
「そういう人はどういう仕事をするの?」
「薬草について学び、薬草を煎じたり、今日の朝のような食事を作ったり、また、必ずしもその族ごとに働いているわけでもありません。それぞれができることを見つけ、そこで働きます。そして、それで得たものは皆で共有するのです。ここは、そうやって生き残ってきた場所です。」

 シラも、ジアにならって高く飛ぶ鳥を見つめる。

「そうしなければ、生き残れなかった。そんな歴史があります。きっとハルアトスには残っていないでしょう。そもそも、私達は認知すらされていない。」
「…そうね。あたしも、今シラに教えてもらって初めて知っていることばかりよ。」
「それでも、きっとジア様は知ることをやめようとはなさらないでしょう?」
「え?」
「それを、私は嬉しく思います。」

 シラが頬を染めて微笑んだ。今まで見た表情の中で一番穏やかで優しいものだった。
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