ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「シラ。」
「ウルア!こちら側に来るのは珍しいわね…。」
「ランが、姫の様子を見て来いとうるさい。」
「…そういうところでウルアを使うのね。ホルブの方が速いでしょう?」
「ホルブは遠方まで木材の調達兼運搬だ。」
「それで次に速いあなたが使われた、と。」
「ああ。」

 黒の髪が様々な方向に飛んでいる。鋭い目に、ジアは一瞬たじろいだ。

「こちら、ウルア・ルフエル。狼族の長です。」
「手荒なことをしてここまで連れてきて申し訳ない。」
「い、いえっ!あ、いや、城を壊したこととか勝手にこんなことをしたことは怒ってなくもないんですけど…。今日ここで得たものもあるので。」
「得たもの?」

 ウルアの声は低く、重たい。それゆえにいちいちびくついてしまう。

「ここは、共生する場所なのだと思います。まだ、鳥族のことしか見ていませんが、それぞれの役割に応じてというところが、…あたしの目指したいところでもあったので。勉強になります。」

 共に生きる。できることをして、その先にみんなが少しでも幸せになるために。
 アスピリオに牢が必要ないのは誰かの幸せを奪って幸せになろうとか、そういう思いすら抱かないからだろう。誰かのおかげで、食事があり、誰かのおかげで、傷を癒せる。そういうことを肌で感じている。自分がしたことが誰かの役に立っていることを感じ、なおかつ、その恩恵を受けることもできる。

「…理想の仕組みかもしれません、ここは。」
「理想、ですか?」
「まだ、わからないですけど。でも、少なくとも鳥族を見たのと、シラの話を聞いた限りでは素敵だと思いました。…もっと早く知りたかった。こういう場所があるということ。」

 ジアがそういうと、ウルアとシラは二人で顔を見合わせた。

「…変な女だとは思っていたが。」
「変、ではないのですよ。ジア様は本心からそう言ってらっしゃいます。」
「だとしたらますます変だ。」
「…聞こえてるんですけど?」

 ジアはウルアをじろりと睨んだ。

「ハルアトスでは、異種族の者がともに生きているのか?」

 ウルアの真っ直ぐな目と問いが、ジアの心にダイレクトに刺さる。
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