ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「…いいえ。」

 ここで『そうだ』と言えればどれほどよかったか。しかし、それは嘘だ。2人に嘘はつけない。

「お前が国を治めているのに、か?」
「…あたしは王じゃないわ。国を治めているのは父上よ。」
「お前のものの考え方は、国民に広まってはいないのか?」
「…そうね、民は、…恐れているわ。」
「何をだ?」
「自分たちとは違うもの、圧倒的な能力をもつもの、に対して。」

 ウルアは納得のいかない顔をしている。

「…そうね、たとえば…といっても難しいな…だって、ここには何の特殊能力もない人はいないわけでしょう?」
「そうなるな。個体差はあれど、皆身体は変化する。」
「ハルアトスは…少し違うわ。」
「違う?」
「特殊能力をもたない、つまりは今の状態みたいに、人であることが普通で、みんなみたいに身体が変わらない人がほとんどよ。」
「それは知っている。」
「…そして、その普通の人でもない人もいるの。魔法使い。」
「魔法使い…?」

 この土地には魔法が使える人がいない、もしくは魔法という概念がない、といった反応だ。

「…魔法というものをきいたことはある。」
「そうね。」
「シラのあの風は、魔法とは違うの?」
「あれは、風の力をお借りしているだけなんです。口笛に乗って風が助けてくれるんですよ。」
「そういうのも、ハルアトスでは魔法と呼ぶの。」
「…つまり、俺たちも魔法使いになるのか、ハルアトスに行けば。」
「みんなは、それだけじゃないけどね。人と別の姿の2つをもつ、なんていうのはハルアトスの民は知らないし…。」

 アスピリオの民とハルアトスの民が会うということがあったら、おそらくハルアトスの民のほとんどが混乱してしまうだろう。
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