ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「アスピリオは…国じゃないかもしれないけれど、もう国として成立するレベルのいいところよ。自給自足が成り立ち、教育も丁寧に施されている。学習所も見させていただいたけれど、先生方も熱心だし、何よりそれぞれの族に合わせた学びがあるのがいいと思ったわ。」
「かーなり細かく見とるなぁ。」
「時間は沢山あったもの。そして、性質上長く身体を変えることができない人が、弾かれてしまわない社会体制が出来上がっている。当たり前にある、頼り、頼られる関係。でも、身体を変えられなくても輝くところはある。何より、みんな自信と誇りがあるのね。薬師、医師、教師、調理師、技師…みんなとても、やる気に満ちていた。もちろん、ランたちのように長時間の変化に耐えうる身体をもつ人の力も、無駄なく発揮されている。」
「…そんなええ国やのに、姫さんは帰るんか?」

 ジアはゆっくりと目を閉じた。そして、自分が来た方角を見やる。

「ここがいい国だから、あたしはいる必要がないの。学び、持ち帰るだけ。」
「…王族っちゅーんは、わがままにできとるんか?」
「え…?」
「…散々、ここを国とは認めず、人じゃない生き物の寄せ集めとして無視してきたくせに…!」

 シラが表情を曇らせるだけで話してはくれなかった、アスピリオの歴史。ランの震えは、怒りだ。

「オレらはなぁ!」
「っ…。」

 ランの両手が、ジアの首元の服を締め上げた。

「…ここで生きるしかなかった。それ以外の選択肢は与えられてないんや!その気持ちがお前にわかるか?それなのに今更、こんな国なりたい?ふざけんな!どのツラさげてんなこというてんねん!」
「…正直に思ったことを言ったまでよ。良い指導者がここを作ってきたのだと、そう思ったの。」
「人に蔑まれ、疎まれ、存在を否定され続けて…それでもお前は、この場所のようになりたいと思うんか?」
「それは、人が間違っている。この場所は、悪くない。あたしは、ここが好きよ。」

 ランの両手の力が抜けていくのを感じる。すとんとランの頭がジアの肩に乗った。
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