ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「ジア!」

 ノックもなしに入ってきたのはクロハだった。

「見えねーけど声がしたってことはキース、いるんだろ?」

 シュルシュルと音がして、少しずつキースの姿があらわになる。足元にだけ風を送り、窓の外に立っている。

「相変わらず鋭いね、クロハ。久しぶり。」
「…てめぇ…今日が春の宴だってわかっててジアを連れ出したのか!?」
「違う違う!キースは城下でたまたま会ったんだよ。それであたしのわがままに付き合ってくれて…。」
「キース様、お久しぶりです。」
「ミア、久しぶりだね。」
「って、なごんでる場合じゃねぇよ、お前さっさと着替えろ!陛下が散々探してる。」
「え!?お父様が!?」
「春の宴の前に話したいことがあるんだと。」
「…話…。」

 今の時期に一体何の話だろう。少しだけジアの胸がざわついた。キースはそんなジアの様子を見て、小さく微笑みながらもう一度ジアの頭を撫でた。

「…じゃあ、俺行くね。春の宴って一般参加もできるみたいだし、着替えて参加させていただきます。」
「お待ちしておりますね。父と母にもお伝えします。」
「うん。よろしくね、ミア。じゃあジア、…ほどほどに頑張って。」

 そう言い残して、キースは風で身体を隠して飛び去って行った。

「…いいなぁ。」
「キース様が、ですか?」
「魔法を、あんな風に使えて。」

 誰かのために、役に立つように。そんなことを考えて動くことがしたかったはずなのに、それが全然できないでいる自分とは大違いだ。

「…いいからまず着替えろ。そして陛下に会う。」
「そ、そうだった!」

 ジアはマントを脱ぎ捨てて、慌てて侍女が待つ部屋に向かった。
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