ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
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 湯浴みを終え、丁寧に髪が乾かされ、爪を磨かれ、これではまるで王城にいたころの暮らしと大差がない。

「そんなに丁寧にやってもらわなくて大丈夫よ?」
「いえ、とびきり綺麗にしろ、とラン様のご命令ですから。」
「…ねぇ。」

 ジアは思い切って尋ねることにした。

「はい、何でしょうか。」
「ランは、いい長だと思う?」
「もちろんです!何をおっしゃるんですか!」

 即答だ。そして、明るくて可愛い笑顔だ。ランが本当に好かれていることがわかる。

「どういうところがいいの?」
「いつだってラン様は前を向いています。私たちが、ここだけではなく他の国にも行ったり、交流したりすることができるようにどうにかしようとなさっています。」
「…そうね。」

 その第一弾が、ジアの誘拐だったわけだけれど。

「常に私たちの想いを聞いてくださります。そして、自信を持て、顔を上げろと言って下さります。何にも恥じる必要はない、人間と同じ血が流れていなくても、それは間違いではない、と。そんなラン様の真っ直ぐな想いと眼差しは、アスピリオの誇りです。」

 アスピリオの民の全てがこう思っているわけでは、もちろんないだろう。だが、確かにランはアスピリオの民の光でもある。

「…ラン様は、私達を導いてくださります。でも、友達みたいに、笑って隣にいてくれることもあるんです。私たちが幸せかどうか、笑っているかどうか、常に気にかけてくれる。だから私は、ラン様をとても尊敬しています。」
「…そんな風に民に思ってもらえるのは、統治者として嬉しいことだと思うわ。ランは幸せ者ね。」

 キラキラと輝く瞳がジアの心を揺さぶる。そして、ハルアトスを想う。
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