ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
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「また城下に行ったんだって、ジア?」
「…お父様…申し訳ありません!」

 ジアは深く頭を下げた。ばらしたのは絶対にクロハである。

「いやいや、行きたくなる気持ちもわかるよ。特にジアはそうだろうと思っていた。」
「…どういう、ことですか?」

 国王は優しく微笑みながらゆっくりと口を開いた。

「直接聞いて、見て、それを政治に反映したい。そんな風に私には見える。」
「…そこまで、深く考えていたわけではありません。」
「深く考えなくてもそうできるっていうことかな?」
「そ、そういうつもりでもなくて…。ただ、街の人たちの様子が知りたいんです。自分が間違ったことをしていないかどうか。みんなは幸せかどうか、何が足りないのか、どうやって補えるのか…それは先ほどお父様がおっしゃっていたように、直接聞いて、見て…じゃないと、私にはわからない…と思ったので。」
「それで、護衛を撒いて城下に飛び出した、と。」
「それは…申し訳ありません。」

 護衛なんていらない、と本当ならば言いたいところではある。しかし、今のジアではそれがそもそもわがままになってしまう。

「城下にはキースもいるからな。てっきり城に住んでくれるのかと思っていたよ。」
「…けじめだと言っていました。」

 こうやって父とキースの話をするのは初めてだった。だからこそ心臓が痛い。妙な緊張が走る。

「なるほど。けじめにも色々あるけれど、どういうけじめだろう?」
「…そういう話をキースとしたことが、あまりないかもしれません。」
「私もだよ。キースとはもっとゆっくり話したかった。最近では城にもなかなか来てはくれないしね。」
「ただの人間で特に突出した能力もない自分が城に呼ばれて行くのは変だろうって言っています。それについては、ですけど。」

 いつか、遠くを見つめながらそんなことを言っていたことを思い出す。
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