ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「こんな時にお役に立てずに…。」
「すまない。結局俺たちは、何も返せていない。」

 ガイとウルアが静かに頭を下げた。ホルブ、フォーン、ラビは何も言わずに立っている。フォーンの目には涙が溜まっている。

「…ラン、死んじゃうのか。」
「死なせるかよ。おれとミアが治療するんだぞ。死なせねーよ。」
「私、頑張りますのでお任せください。」

 ミアはずっと魔力を使いっぱなしである。おかげで顎のただれは治ってきている。

「キース。」
「ん?」
「こいつ、あらかた終わってあとはミアの範疇だから。次お前。」
「あ、俺は大丈夫だよ。放っておけば治るし。」
「ダメ!」
「っ…。」

 ジアはキースの頬に触れた。その怪我の痛みで、キースは表情を歪めた。服のあちらこちらが焼けている。怪我は前回の火傷よりマシでも、軽微なものだけではないのだろう。

「本当は痛いでしょ?」
「…うん。」
「んじゃ、大人しくジアにやってもらえ。ジアがやるなら文句ねーだろ。」
「クロハ、借りるね。」
「おー。」

 クロハはひらひらと手を振りながら行ってしまう。おそらくミアの飲み物を取りに行くのだろう。
 
「さぁ、お前たちの王はひとまず何かをできる状態にはない。よって婚姻の儀は取り消しだ。そしてそこの六人よ。王不在の今、次に立つべきはそなたたちなのだろう。民の不安を煽る顔をするな。それが、誰かの上に立つ、ということだ。」

 シュリの言葉が深く刺さったらしい。ウルアが口を開く。

「ランの命を救おうとしてくださっているハルアトスからの使者をもてなす用意と、壊れた建物の回収を行う。それぞれがやれることをやろう。」
「はいっ!」

 ウルアが全体に呼び掛けた後、ミアのもとにやってきた。

「…治療は任せる。よろしく頼む。ランを救ってくれ。」
「もちろんです。任せてください。大丈夫ですよ。」

 ミアはにっこりと微笑んだ。
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