ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
 キースとジアは無言で、ジアが使っていた部屋へと向かう。言いたいことがたくさんあるのに、言えない。それが無言の時間を作ってしまう。

「座って。」
「うん。」

 キースはベッドに腰掛けた。ジアは隣に座り、クロハから借りた治療道具一式を広げた。そしてそっとキースの頬に手を伸ばす。

「ほっぺ、結構酷いね。切れちゃってる。」

 キースの頬に触れた手は、そのままキースに奪われた。

「キースっ…!」

 その手を引かれ、ぎゅっと抱きしめられる。キースが深く息をはく音が聞こえた。

「…ごめんね、守れなくて。」
「守ってくれたよ!」

 ジアは顔を上げた。すると、キースは切なげに微笑んでジアの目元に指をあてた。

「…たくさん泣かせちゃったでしょ。さっきも泣いてたし、昨日も泣いた?もっと上手にジアのところに来て、見つからないように連れて帰るつもりだったのに…。上手くいかなかった。」
「そんなこと…。」
「…すごく、…嫌、だったし。」
「え?」

 キースの頭がゆっくりとジアの肩におりてくる。

「…自分にこんなに醜い感情があるって知らなかった。」
「…どういう、こと?」

 キースが何を言おうとしているのか全くつかめなくて、ジアは質問しかできない。

「好きだよ。」
「へっ!?」
「…近くにいても離れてみても、やっぱり好きだよ。離れることで…こんな想いするの、もう嫌だって、思った。ランの背に乗るジアを、見続けるのが辛かった。」
「あれは…ごめんなさい。あたし、ひどいこと…した。キースに、迷わせちゃった。」

 謝ることなら、たくさんある。

「なんでジアが謝るの?」
「キースに、魔法を使わせようと、してしまったから。」

 見抜かれていた、気持ち。そしてそれと同時に見抜いていた涙。
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