ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「…わかってたんだ、迷ったこと。」
「うん。」
ジアはキースの背にそっと手をあてた。
「ボロボロのキースから目を逸らしたのも、ごめんなさい。」
「目、逸らしてなかったよ。泣きそうな顔してた。…させたんだよね。」
「…違うの、キースは…全然、悪くなくて…。あたしが、全然、追い付けないだけで。」
ジアの声が震えた。それに気付いたキースが、顔を上げたジアを見つめる。
「…追い付かないのは、俺だよ。だからジア。」
「?」
鼻がぶつかりそうな距離で、キースは言葉を続ける。
「…置いて、行かないで。俺を。ジアの隣に立つためなら、どんな人の前で魔法を使うのも、もう大丈夫だから。もう、迷わないから。」
ジアの両目から涙が零れ落ちる。目が開けられないでいると、そっと唇が重なる感触がした。驚いて目を開ければ、そこには昨日思い浮かべては泣いたキースの笑顔がある。
「…すごく、嫌だった。あの一瞬で自分の中の黒い感情がうわーってなるのを感じたよ。なんで奪わせちゃったんだって。」
キースの指がジアの唇をなぞった。そしてそこでようやくわかる。キースが言っていることの意味が。
「っ…キスも…ごめんなさい、ちゃんと避けれなくてっ…。」
「上書きさせて。」
もう一度重なる唇。啄む唇に、心拍数が上がる。
「…キース…?」
「生まれて初めての、嫉妬。とられる、って焦り。生きるか死ぬかでしかなかった世界に、君が飛び込んできたから知った感情…だよ、本当に。…ジアのことも、結局泣かせた。」
ジアは俯いた。ランには申し訳ないけれど、嫌だった。無理矢理だったというのもあるけれど、本当の理由はきっとそうじゃない。
「…だって、キースじゃないんだもん…。そんなの、嫌だよ。」
心臓がどきどきとうるさいのは、相手がキースだからだ。触れる指に嬉しくなって、その手は握りたくて、唇に触れてほしいのは、キースにだけだから。
「うん。」
ジアはキースの背にそっと手をあてた。
「ボロボロのキースから目を逸らしたのも、ごめんなさい。」
「目、逸らしてなかったよ。泣きそうな顔してた。…させたんだよね。」
「…違うの、キースは…全然、悪くなくて…。あたしが、全然、追い付けないだけで。」
ジアの声が震えた。それに気付いたキースが、顔を上げたジアを見つめる。
「…追い付かないのは、俺だよ。だからジア。」
「?」
鼻がぶつかりそうな距離で、キースは言葉を続ける。
「…置いて、行かないで。俺を。ジアの隣に立つためなら、どんな人の前で魔法を使うのも、もう大丈夫だから。もう、迷わないから。」
ジアの両目から涙が零れ落ちる。目が開けられないでいると、そっと唇が重なる感触がした。驚いて目を開ければ、そこには昨日思い浮かべては泣いたキースの笑顔がある。
「…すごく、嫌だった。あの一瞬で自分の中の黒い感情がうわーってなるのを感じたよ。なんで奪わせちゃったんだって。」
キースの指がジアの唇をなぞった。そしてそこでようやくわかる。キースが言っていることの意味が。
「っ…キスも…ごめんなさい、ちゃんと避けれなくてっ…。」
「上書きさせて。」
もう一度重なる唇。啄む唇に、心拍数が上がる。
「…キース…?」
「生まれて初めての、嫉妬。とられる、って焦り。生きるか死ぬかでしかなかった世界に、君が飛び込んできたから知った感情…だよ、本当に。…ジアのことも、結局泣かせた。」
ジアは俯いた。ランには申し訳ないけれど、嫌だった。無理矢理だったというのもあるけれど、本当の理由はきっとそうじゃない。
「…だって、キースじゃないんだもん…。そんなの、嫌だよ。」
心臓がどきどきとうるさいのは、相手がキースだからだ。触れる指に嬉しくなって、その手は握りたくて、唇に触れてほしいのは、キースにだけだから。