ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「それも一理あるね。キースはこれからも人間として生きていくのかな?」
「…どう、なんでしょう。私は…。」

 私は、の続きをどう続ける気なんだ、自分は。
 そう思ってジアは言葉を飲み込んだ。キースがどう生きるかは、ジアに口出しできるものではない。それはキースが決めることだ。

「私は、なんだい?」
「…い、いえ。キースの人生に口を挟んじゃだめです。」
「大事な人なんだろう?」
「っ…。」

 王としてではなく、今は父としての視線を感じる。きっと、様々な面でたくさんの心配をかけている。紅潮する頬を押さえ、ジアはゆっくりと口を開く。

「私をここまで導いてくれたのは、間違いなくキースです。私の願いを聞き届け、私を守るためにプライドも命も掛けてくれた。だからちゃんとそれに見合う人でありたいんです。」
「見合う人というのは?」
「正々堂々と、キースの隣に立てる人です。私には色々足りません。努力はしているつもりだけど、足りないです。もっと、魔力を使いこなせるようになれれば、もっと国のためになることができるかもしれない。そのためには、魔法がもっと受け入れられる世の中にならないと…。魔法使いが、とか人間が、とか…そういうことじゃないって…思ってはいるんですけど。」
「ジアの目標は変わらないんだね。」
「え?」
「…目指すべきは、そこかもしれない。」

 父の横顔が遠くを見つめている。

「もし、このまま目標が変わらないのであれば…。」
「…?」
「さあ、春の宴だ。国民との交流を図れる、比較的緩やかな宴だよ。存分に楽しむといい。」
「は、はいっ!」

 父から国王に変わった表情に押され、ジアは部屋を後にした。

「…娘の覚悟は聞いた。残すは、キース。君だよ。」
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