ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
― ― ― ― ―

「キースくん?」
「…!女王陛下!…本日は春の宴の開催、おめでとうございます。」
「あらあら、そんなにかしこまらなくていいのよ。あなたは恩人なんだから。」
「…ジア王女も、私の恩人ですから。」
「そうね。」

 笑うとジアにそっくりな女王陛下。物腰や声はミアにそっくりだが、顔は本当にジアによく似ている。そんな女王陛下と会話をかしこまらずにするなんてキースには無理だ。しかも、女王陛下が直々に声を掛けるなんて、有り得ない。周囲の民衆の目がキースに刺さる。

「ジアには会っていかないの?」
「…機会があれば、声を掛けようかとは思っていました。でも…。」

 キースの目線の先にはジアがいた。ジアは人気者だ。気取らない性格でありながら、話もよくするし、聞いてもくれる。それに何より、この国を救った英雄だ。

「忙しそうです。国民の声に耳を傾けることをジアは…大事にしています。…ジア、王女は。」

 うっかりジア、と呼び捨てにしてしまった。この場でそれはよくないことはキースにもわかっている。

「ジア、でいいのに。ジアもあなたにそう呼ばれることを望んでいるわ。」
「ここではそう呼ばない方がいいと思っています。私と王女では立場があまりにも違いすぎます。」
「ジアは、…自分だけが英雄みたいに話が広がっていくこと、とても嫌がっていたけれど。」
「事実です。王女は英雄です。」
「それは一人で成しえたことではないでしょう?あの子はあなたに手を伸ばした。あなたもそれを握り返した。…だから、最後まで走りきることができたのよ。」

 そう言ってまた女王は微笑む。その微笑みを見るだけでキースは胸が苦しくなった。

「…ねぇ、キースくん。」
「はい。」
「あなたの今の迷いは何?どうしてそこまで、下がろうとしているの?」

 女王の言葉は的確だった。迷いが確かにあって、上手く進めないでいる、自分。
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