無の王
次の日の放課後。零は屋上で日向飛鳥を待っていた。


日向飛鳥のクラスは零とは違い国公立進学コースの為、毎日5時まで授業である。


零の行っている村沢高校はそれなりの進学校だが、一年の時の成績上位者は希望者のみ2年から国公立進学コースのクラスに在籍出来る。


つまり、日向は村沢高校内ではエリートである。




そのエリートの日向飛鳥が何も無い俺を好きになるなんて可笑しい話だ。

どう考えても面白半分で俺に告白しているとしか思えない。


だが…その決め付けはダメっ…!

この世の中、自分の勝手な考えのみで決め付けてはダメっ…!



自分の勝手な決め付けで相手を傷付けることも有り得る。

青春時代の傷付き…トラウマは永遠だっ…!

青春時代のトラウマは死ぬまで脳裏から離れないっ…!


そのトラウマで性格が荒み、人生まで変わるなんて事も有り得ない事ではない。


少し話が重いが…それだけ人生は重いっ…!


軽くなんて無いんだっ…!


やり直しがきかないっ…!人生って奴はっ…!





だから零は決めてきた。

日向飛鳥に言う言葉を…。







そしてそれからしばらく経ち日向飛鳥が屋上に来た。


「あ、ごめん。伊地野くん。授業があって…」


申し訳なさそうに言う日向飛鳥は頭を下げて謝る。


だが零はその事は知っていたから、その事には何も言わない。



しかし、昨日の事には答える。

「日向さん…。昨日の事、とても嬉しいんだけど俺は君の事を何も知らない。だから友達から始めないか?」


ドッキリの可能性があるから怖くて告白は受けない。

だが、勝手な思い込みで日向飛鳥を傷付けるのも嫌だ。

その為、零が出した答えは「まずは友達から」だ。



零のその言葉を聞いた日向は別に悲しそうな顔をせずに、嬉しそうな顔もしなかった。


「それもそうだよね…。伊地野くん私の事あまり知らないよね…。」



そう言いながら日向飛鳥は零に電話番号とメールアドレスを書いた紙を渡してきた。


「これ、渡すから連絡してきてください。連絡待ってます。」

そして日向は笑顔で言いながら帰っていった。
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