無の王
「俺に話がある・・・?話は後でも出来るだろ。てか、ケータイに連絡すれば良いのにわざわざコンビニまで来るか普通?」


「まぁまぁ、さっさと買って外に出ましょう。」



結局、俺は綾瀬に押されるようにレジに行き、コーヒー風味のパンとカフェオレを買って外に出た。


「・・・で何の用だよ?金は貸さないぞ。」


「借りませんよっ!いや、実はですね。頭の良さそうなセンパイにですね、お勉強を教えてもらおうかと思いまして・・・。」

綾瀬はソッと零の目を覗き込むように見る。

「却下だ。俺は無意味な勉強が嫌いなんだ。悪いな。」

「ダメなんですか・・・?」

綾瀬は上目遣いで俺の顔を見る。

正直、上目遣いをされたら断りにくい。

恐らく綾瀬はこの手のプロだろう。

男を手玉に取る達人・・・!その可愛い容姿で男を掌で弄ぶ異端の感性・・・!


だがっ・・・!しかし・・・!零にはそんなの効かなかったっ・・・!


「頭の悪い俺に教えてもらうとおかしいだろ。むしろ教えてくれ。」


鼻で「フッ」と笑い零は言い放つ。

しかし、綾瀬は不思議そうな顔をする。

「じゃあセンパイは何が出来るんですか?勉強は出来なくても頭はキレるってタイプに感じるんですけどっ。」

「喧嘩とか勝負事かな。いわゆる心理の駆け引きには自信がある。」

「何ですか、それ。」

綾瀬はイマイチ、ピンと来ないみたいだ。

それもそのはず、勝負に生きていない奴に心理の駆け引きなんて理解できる筈がない。

そもそも、この世の中は勝負事だらけ・・・駆け引きだらけである。


スポーツだって勝った負けたの勝負事。

受験戦争、就職活動だって勝った負けたの勝負事の様なものだ。


更に就職してから出世争い。

いかに人に頭を下げ、媚をへつらい、人を出し抜き、人より実績を上げるかの勝負事である。


こういった人生という勝負事には必ず心理の駆け引きがある。

スポーツだって間合いを取ったりして相手の心のリズムを狂わせる駆け引きがある。


就職活動でも面接官に好印象を与える話術・立ち振舞いがあり、わざと自信があるフリをしたり、真面目ぶったりする駆け引きがある。


そして出世争いには上司に取り入る巧さや、客を集める人身掌握術が必要だ。


つまり生きていく上で勝負事と駆け引きは絶対必要なのだ。



しかし大半の人はそこに気付かない。

気付かずに年を取り死んで行くのだ。


勿論、綾瀬みたいな今時の女子高生がそんな人生観を持っている筈がない。



そして、俺は媚を売ったりする世渡り等の駆け引きは苦手だが人を出し抜く能力に関しては天才的だと思っている。
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