遠すぎる君
目の前の紅茶が冷めていくのを見ながら、私は観念せざるを得ないことを悟った。
「会ったのね?」
「…………はい」
「いつよ?」
「……日曜日」
「試合の……あと?」
「うん。バイト先に来てくれて……」
「え?アイツしおりのバイト先知ってたの?」
「……みたい」
「教えてないのに知ってたの?」
「教えてないけど……知ってたね……」
「ストーカー?」
と、小首を傾げて怪訝な顔をした。
「そんな……」
「それで何の話したのよ?」
矢継ぎ早に質問する美幸に答える形で、私は全てを打ち明けた。
それを聞いて美幸は押し黙ったまま腕を組む。
そして「やっぱりバカだな」と呟いた。
「そこでまだサッカー?試合見に来てほしいって?よっくわかんないなぁ……見に来てどうしろって言うのさ。」
頭を抱え出した。
「美幸は……遼に会ったこと、なんでわかったの?」
「わからいでか。アイツ、昨日ほんとに『ウキウキ』って感じでさ。正レギュラー取れたらもっと締まった顔するでしょ。崩壊してたよ、完全に。」
「えぇ……?」
「アイツがあんな顔するの、しおり絡みの時だけだから。」
「ま、まさかぁ。」
「だからわかりやすいってのよ、あんた逹は。」
と私の顔に人差し指を突きつけた。
「顔」
「えっっ?」
「真っ赤だよ。しかも口緩んでる。」
鏡を見るまでもなく、耳まで熱を持ってるのがわかる。
頬に手を当てて熱を冷まそうとした。
「はぁ~~~もうなんなの?で、どうすんの?見に行くの?」
「う……ん、行くよ。」
もう一度溜め息をついた美幸は鞄から一枚のメモを取り出した。
「これ、サッカー部の試合予定。クラスのやつに聞いたから。どーせアイツはそんなもん渡さなかったんでしょ?」
正解だ。
遼のことをわかってる風の美幸に少し嫉妬した。
それと同時に、あんなに遼を貶していたのに、私を後押ししてくれるような美幸のその態度に嬉しさを隠せない。
「あ、ありがとう!美幸、大好き~」
思わず彼女の両手を握った。
「じゃあそれが誕プレということで!」
美幸は照れ隠しか「安くついた」と笑っていた。
私は大好きな美幸の応援と遼の試合スケジュール。
思った以上のプレゼントを貰えて、素敵な誕生日を送ることができたなと思う。
もちろん、首にかかったイルカのネックレスが今年一番のプレゼントだったけれど。