遠すぎる君
美幸とたっぷり二時間は話し込んで、ようやく帰宅したのは7時過ぎ。
今日は本当に楽しかったし嬉しかったなぁ。
なんて良い日なんだろう。
そう思うと足取りも軽くなる。
誰もいない家に入ると「ただいま~」なんて言ってみたり。
「おかえり」
聞こえるはずのない声が聞こえて、心臓が止まるかと思った。
「うわっ!びっくりした!」
「ごめんごめん。」
母がそこにいた。
「あれ?仕事は?」
平日はいつも9時頃なのに。
だからご飯は私が作っている。
だけど、今日は食卓から良いにおいがした。
「今日は夜のは休んだ!誕生日おめでとう!」
「えぇ?」
食卓にはわたしが小さい頃好きだった料理が並んでいた。
鶏の治部煮
ポークチャップ
塩のお握り
「わかってたらもっと早く帰ったのに……」
「あんたが美幸ちゃんとお茶してくるって言うから作れたのよ。さすがに直で帰宅されたら間に合わなかったわ。」
確かに料理逹からは湯気が上がっている。
そしてお母さんはきっと着替えもしていない。
レジのパートから帰ってきて早速作ってくれたんだろう。
「いつも任せっぱなしでごめんね。今日はしおりの好きなもの作ってみたの。
……作ってみると、あんた変わったもの好きだったのね……」
「ひどーい……でもありがとう!」
「食べよ~!なんか久しぶりに料理頑張ったわ!」
手を洗って
さっき食べたアップルパイでそんなにお腹は減ってなかったけれど、こんなに料理が美味しいと感じたのは久し振り。
やっぱり人に作ってもらうご飯は格別だなぁ
しみじみ味わっていると、
「ねぇ、それ。」
と私の胸を指差した。
「無意識?」
「え?」
知らずに服の上から箸とは違う方の手で触っていたらしい。
遼からもらったネックレス。
「それって誕生日プレゼント?」
「えーっと、……そう。」
「彼氏から?あの青嵐の……同級生だった?」
「え?えぇっ?」
なにがなんだかわからない。
なぜお母さんは遼のことを知っているのだろう。
「日曜は会えたの?彼と。」
「な、なんで知ってるの?!」
「だって家に来たんだもん。」
「えーっ!遼が来たのっ?ここにっっ?」
「遼くんって言うの?彼、言ってなかった?『しおりはバイトです』って言ったら慌てて向かったわよ。」
あの時、遼はまずうちに来たんだ……
ニヤニヤ笑うの母親の顔が見られない。
「へー……そう、彼に貰ったんだ~……」
「かっ彼じゃないしっ!」
今は彼ではない。間違いない。
「彼じゃないのに貰ったの?それ、ネックレスでしょ?見せてよ。」
手を伸ばしてくるその手を払いのけた。
「ダ、ダメ!」
「なによ~ケチねぇ……。ま、いいわ。良さそうな子ね。良いじゃない。」
「……ほんと?」
「色もスポーツしてるの?青春してますって感じの好青年ね!お母さん、好きよ~あんな子。」
「ほんとに?」
お母さんはニッコリ笑った。