遠すぎる君
今日はしおりの誕生日。
携帯の日付を何度も何度も確認したから間違いない。
俺は朝からずっとそわそわしていた。
だけど学校があり部活ももちろんあって、メールがしづらい。
ゆっくり話せないしな。
試合を見に来てもらえる約束を取り付け、誕生日プレゼントも渡した。
だけど今日という日を間違いなく、一言でも祝いたかった。
しおりはバイトかもしれない。
帰宅してご飯食べて……よし、10時だ。
その時間ならゆっくりやり取りできるだろう。
そして俺は『おめでとうメール』を送った。
しおりは気づいているだろうか。
俺が初めて誕生日を祝ったことに。
チクチクする胸の痛みを感じながら返信を待つつもりだった。だけど、そんなに後悔する隙もなく、返信が届く。
『嬉しかった』
しおりの一言で俺は間違ってなかったと思えた。
勇気を出して良かった。また話せて良かった。
そして次の試合、見に来てくれる。
この高揚感が俺を調子に乗らせた。
『ホレるなよ』
案の定しおりから返事はなかった。
なんでこんなこと送ったんだ、俺……
もう急降下した気持ちは浮上してくる気配を見せない。
俺は嬉しすぎて、道を誤ったんだ。
しおりはきっと怪訝に思っただろう。
お情けで見に来てくれるかもしれないのに、
こんな上からモノを言われて不愉快だろう。
試合、来てくれなかったらどうしよう。
「俺……やっぱりバカなんだな……」
松井のつり上がった目を思い出して、項垂れた。