遠すぎる君

私にはサッカーはわからない。
ルールもわからない。

ただ、遼が一生懸命走り回ってるのを見ていた。
ゴール前の緊迫した瞬間はなかなか来ないし。
遼がいつもボールを持ってるわけではない。
なのに。

「へぇ。やっぱ青蘭のレギュラーを2年で取るだけはあるな。良い動きしてるよ。」
「そうなの?」
永沢くんの感想に乗っかってみる。
「中田さん、あんまりサッカーとか見ないの?」
「……恥ずかしながら、全く……」
「え?彼氏がサッカー部だったのに?」
そこに私達二人の間に座る美幸が割り込んだ。

「彼氏じゃなくて元カレだし。」
「あぁごめん。そうそう。元カレね……」
永沢くんはどうでも良さそうだけれど、美幸に反抗はしない。
「昔、いろいろ教えてくれたんだけどね。アタマにはいらなくて……ゴールに入れるか入れられるか……ぐらいしかわかんないの。」
「あーんなサッカーバカの相手、よく勤まったなぁ。」

「…………まぁ2ヶ月も勤まらなかったけどね……」

私の言葉が二人を凍りつかせた。
それに気付いた私は慌てて訂正する。
「あ、いやっ!ごめっ!ごめんね!」

訂正にはならなかったけど。

「笑うとこか突っ込むとこかわかんなかった……」

そう言って誤魔化してくれる美幸が居てよかった。
ハハハと渇いた笑いをしている永沢くんは、きっと後で美幸にこってり絞られるのだろう。

私に付き合って観戦してくれてるのに、本当に申し訳ないことをした。


永沢くんに言われてよく観察をしていれば、遼は確かにフリーになることが多かった。
ということはパスが通りやすい、という事?

だけど、遼にパスは回ってくることは少ない。
やっぱり2年で、先日まではレギュラーじゃなかったからなのか。

後半、あと10分を残すところでようやくチャンスが回ってきた。
青蘭はゴールを狙えるチャンス。

ウワーッと歓声が巻き起こる。

良い位置につけていた遼にようやくボールが回る。
「いけ!高坂!」
永沢くんが声を上げた。
他の人も「ゴールだ!狙える!」と興奮している。
私は両手をギュッと握りしめた。

遼はその場からでもシュートは打てた。
だけど、よりゴールに近いメンバーにすぐにパスを回した。

「ナイスアシスト!」
どこからかそんな声が聞こえた。

だけどパスは通ったけれども、ゴールは決まらなかった。
いつのまにか立っていた応援団はまたガタガタと座ることになる。

皆は残念そうだったけれど、遼はただ汗を二の腕で拭っただけで涼しい顔をしていた。



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