遠すぎる君
ゆうに8時は過ぎていたと思う。

帰るとお母さんが食卓に座っていた。

「おかえり~」

「遅くなってごめんごめん。着替えてくるね。」

ふとテーブルを見ると
食事の横に缶チューハイの空き缶が3本…

珍しいなぁ~
いつもお風呂入るまでは飲んでも1本なのに。
ま、今日は暑いもんね。

二時間のカラオケで気分も上がっていて
今日美幸が歌った曲を歌いながら着替えて食卓に座った。

「いただきま~す」

歌って騒いできたので
お腹ペコペコ。
あっという間にお腹の中に入ってく。

お母さんは先に食べたみたいで
私が食べるのをじっと見ている。

その視線が刺さってきそうなので
「どうしたの?」と聞いてみた。

私が食べ終わるのを待って
お母さんは口を開いた。

「お父さんと離婚することになった」

お母さんの表情は固い。

なんだろう。この感じ。
つい先月も同じような事があったな。
何が起こったのかわかってるんだけど
気持ちが付いてこない…みたいな。

ボーッとお母さんの顔を見ていると

「お父さん、ずっと他所に女がいたのよ。」ため息をついて続けた。
「6年だったかな。知ってはいたんだけど。」

「…6年も?」

「離婚はしおりが成人してからと思ってたんだけど。…その人と暮らしたいんだって。」

お父さんはお堅い職業の筆頭、銀行マンだ。
不倫やら離婚やらのゴタゴタは窓際左遷もの。

そんな危険を犯すなんて…

そんな検討外れのことを思った。

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