遠すぎる君
今日の俺の動きは悪くない。
だけど、部長の動きが悪かった。
さっきのアシストで点が入ると思ったが、部長は決められなかった。
俺は部長に目をやった。
もしかして負傷した先輩に続いて、部長も?
だからパスが回ってこない?
なんとなくそう感じた俺は、次からは自分でゴールを狙う事に決めた。
チームワークが大切な多人数スポーツで身勝って極まりないけれど。
そうしていたらまたボールが回ってきた。
俺は部長ではない先輩達がゴール前に付けてないのを確認すると、半ば強引に相手ゴール前にねじ込んだ。
俺が焦っていると見えるかもしれない。
だけどここで終わるわけにはいかない。
そして、俺の打つ強引なシュートは相手にブロックされる。
先輩が「お前、なにやってんだ!ゴール前に神崎がいただろうが!」
と怒鳴られた。
だけど、部長の不調を敵の前で暴露するわけにはいかない。
「すいません」
素直に謝った。
部長は俺を咎めず、目を瞑って肩で息をしている。
俺は確信した。
次のパスもその次のパスもゴールを狙った。
パスは必ず部長から回ってきたんだから。
その一つが相手ゴールの隅に決まった時、俺は祝福を受けるどころか、先輩達の冷ややかな視線を一斉に受けた。
もちろん、観客席は沸いていたけれど。
監督は身勝手なプレイをした俺を交代することもせず、その試合は終わった。
1-0だった。
試合後のミーティングが終わって解散になっても、先日のように俺を誉めなかった。
たった一人を除いては。
「お疲れさん。今日のお前はイケてたわ~」
杉本は茶化しながら俺に近寄ってきた。
「お前ってそんなにポンポンシュート打つやつだったっけ?今日はスゴかったなぁ。数打って当たって良かったな!」
何の邪気もなくそう言いのけた。
なんとなく気持ちが軽くなって、部長に目をやると既にそこには居なかった。
今日は何だったのか、話したかったのにな……
諦めて帰ろうとバッグを背負って杉本と出口に向かう。
出口を出る前、トイレの方から聞き覚えのある低い争う声が聞こえた。
そちらに行こうとした瞬間、白いシャツが目についた。
出口の横にしおりが立っていた。
「あれ?あの子……」杉本がしおりを見て一瞬考える。瞬間俺の頭が沸騰するのを感じた。
杉本に見られてしまった事が恥ずかしくて俺は思わず舌打ちした。
するとみるみるうちに悲しそうな顔になったしおりに慌てた。
「あ!違っ!……来てくれてサンキュ。」
「…………ごめんね、すぐ帰ろうと思ったんだけど……」
しおりの後方には、やっぱり俺を睨んだ松井と永沢がいた。
「……嬉しかった。フィールドから見えた。」「……ホント?」
隣で杉本がニヤニヤしてるのがわかって、うまく話せない。
「あ、俺、先帰るわ。じゃな。中田さん。」
「え?え?」
しおりは杉本がしおりの名前を知ってたことに驚いていた。
それを見て俺は少し和やかな気持ちになって、「おう。お疲れ。」と杉本に声をかけ、そちらをチラッと見た。
そこに、部長と菜々先輩が歩いて帰るところだった。
菜々先輩は食い気味に部長に話しかけていて、部長はただ前を向いてスタスタ歩いていた。
菜々先輩が一方的に怒っているようだ。
何を揉めてるんだろう
今日の不調の事……?
何を話しているのか気になって二人の後ろ姿をじっと見てると
「行って。先輩なんでしょ?」
しおりは柔らかな声で、そしていつか見たことある瞳をしてそう言った。