遠すぎる君
私にはよくわからなかったけど、永沢くんは
「なんでゴール前にボール回さないんだ?」とか
「アイツ、さっきまでと違うな。」とか
ずっとブツブツ言っていた。
確かにゴール前には動きの良さそうな人が居るときもある。
遼はボールを持つと必ずゴールを狙うみたいだ。
「しおりにいいとこ見せたいんじゃないの~」
「あぁ……なるほど。アイツ、やっぱりバカだな。」
二人の言葉には愛情があったんだけど
「違うよ……遼はそんなんじゃない。」
と小さめに抗議すると、二人はこちらをマジマジと見た。
「な、なに……?」
「いや、アイツそういうやつでしょ?単純で。」
永沢くんは呆れながらそう言った。
だけど、私は怒りも少し交えながらキッパリと否定した。
「サッカーにそんなこと持ち込んだりしない。今も、昔も。」
美幸は横で軽く笑って
「そうだよね。だからしおりがひどい目にあったんだから。」
「ひどい目なんて……」
「バカみたいに1つの事しかできないから、放っとかれたんじゃん。しおりもサッカーも好きなくせに。」
『しおりもサッカーも好きなくせに』
私はそれがどうなのかわかんなかったけど、顔が熱くなってくるのを止められなかった。
永沢くんは「あぁ、そっか。そうだったなぁ。」なんて昔を思い出している。
私の恥ずかしい過去も含まれてるんだろうか。
恥ずかしさで思わずフィールドの遼をすがるように見た。
その時、さっきの私の言葉を証明するかのように綺麗なゴールが決まった。
ゆっくりと弧を描くカーブのかかったシュート。
真っ直ぐなんだけど、少し遠回りみたい。
まるで私の中に飛び込んでくる遼の心のようなシュートだった。
一瞬、時が止まったかのような静寂の後、一斉に観客が沸いた。