遠すぎる君
遼、スゴイ。
この相手の隙をついた綺麗なシュートは、きっと何年も鍛え上げた技術と尚且つ強い精神力を持ってこそ出来るんだ。
このたった一本のシュートが遼のこれまでのサッカーを証明しているように思えた。
「2年生がやったぞ。」
「すげーじゃん。」
「勝てるぞ!」
そんな声がたくさん聞こえてきて自分の事のように嬉しい。
ただ、遼は近寄ってきたメンバーと喋っていたが、
それは嬉しそうではなくちょっと辛そうだった。
観客席とフィールドでは随分な温度差を感じる。
だけど、遼が決めた一点が決勝点となった。
「さて」
腰を上げながら美幸は荷物を持った。
「行こっか。」そう言いながら出口とは反対方向に進む。
「うん?どこいくの?出口こっち。」
そう言うと、隣にいた永沢くんは「高坂は確かあっちから出てくる筈だよ。」と美幸が進む方向を指差した。
「え?そんなつもり無いし!」
「なに言ってんの?どんなつもりできたのよ。会わないで帰るなんて訳がわかんない。」
「いや、でもミーティングとかあるだろうし。」
「すぐ終わるわよ。明日も試合なのに。」
最終的に美幸に強引に手を引っ張られて付いていった先は、管理棟の入口だった。
そこで10分ほど待つと青蘭の選手が奥の通路から歩いてきた。
「来たんじゃない?あ、来た来た。」
星蘭サッカー部の青いジャージを見ると緊張が高まる。
最初に顧問の先生らしき人と一人の選手。
その後ろから走ってきた同じジャージ姿のその人は、いつか雑貨屋で出会ったあの女の子だった。
マネージャーだったんだ……。
私が何かを思う間も無く、神妙な表情の彼女は先に歩いてきた二人に追い付いて怒りだした。
「ちょっと待ってよ!」
先程勝利を納めた喜びはなさそう。何を揉めているのだろう。
「静かにしろ。」そう先生は言って、三人は私の前を横切って出口とは違う事務所の影になる場所に歩いていった。
私たちは「?」と思いながらも次にゾロソロと歩いてくる集団を見た。
その集団に少し遅れて遼は歩いてきた。
「あ、あれ。杉本じゃん。しおり、覚えてる?」
「すぎもと……くん?そう言えば見覚えが……」
中学の時、サッカー部にいたかな?
すると、杉本くんはそれに答えるようにこちらに気付き、そしてニヤッと笑った。
遼もようやく気付いてこちらを向いた。
驚いた顔をして私を見ると、眉間にシワを寄せた。
それを見て私は「やっぱり帰れば良かった」と思ったけれど、それは後の祭りで。
しぶしぶ遼一人でこちらに歩いてきた。