遠すぎる君

筆無精の遼からメールはなかった。
そしてモヤモヤした夜を過ごした。

だけど、準決勝も見に行くことにした。
昨日の微妙な空気のまま、遼から逃げることはもうしたくなかった。

昨日の帰り道に美幸から「明日も行ってあげなよ。」と言われたというのもある。もちろん、彼女はプリプリ怒っていたけれど。

今日は美幸と永沢くんは公開模試に出掛けるようで、私一人なのがちょっと心細い。

私が着くと既に試合は始まっていた。

昨日とは違う端っこの方でコッソリ応援することにした。

今日はメンバーが変わっていた。
昨日ゴール前で活躍していた人がベンチにいる。
マネージャーと揉めていた人だ。

そして、遼は昨日より明らかに辛そうだった。
昨日と同じようにパスは回ってこない。
昨日ゴールを決めたことを知っているのか、相手チームは遼のマークに集中しているようだ。
私が見ている20分ほどの間、ずっとボールは触れないでいた。

今日は完全に押され気味。
遼がシュートを打てる場所までボールは来ない。

遼がヤキモキしているのがここからでもわかった。

頑張れ、頑張れ遼

昨日の辛い気持ちが無くなって、ただ一心に遼の勝利を願った。

後半になって、遼へのパスが回り始めた。
だけど、たった一人昨日の遼みたいにゴールを狙う人がいた。
確かそこは昨日はあの揉めていた選手がいたポジション。

あぁ。あの人が交代したメンバーなのかな。

そうしていると、マークされている遼は出来るだけその人のフォローに回る。
だけど、相手の隙をついてボールを受け取ろうと身を乗り出しても遼にはボールを意図的に回さなかった。

そうして走り回って辛そうな遼は、次の瞬間相手チームの足に引っ掛かって転倒した。

「…………っ!」

私は口からでる声を両手で押し殺した。

フリーキックの権利を得た遼は、何気ない様子で立ち上がった。

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