遠すぎる君
立ち上がった拍子に少し足首に違和感を感じた。
気のせい……か。
とにもかくにもフリーキックの権利を得た。
部長の代わりに入っている山下先輩と田中先輩が見えた。
ベンチにいる部長をチラッと見た。
部長は何も言わず、じっとこちらを見て座っている。
後半残りわずか。
直接狙ってやる。
そうして渾身の力を込めて蹴ったボールは、ゴールの右上に斜めから吸い込まれていった。
歓声が聞こえる。
山下先輩は俺の近くに寄ってきて、「お前……チッ。まぁいい」と、舌打ちをして戻っていった。
俺が直接ゴールを狙ったから、文句があるんだろう。
だけど、部長と違って山下先輩達が俺のアシストを素直に受けてくれるとは思えなかった。
だから直接狙ったんだ。
今日始まってから、極力俺に回さないでおこうとしてるのは明らかだった。
それは昨日、俺がワンマンプレーをしていると思ったからだろう。
あんな身勝手なプレーをしたのは部長が不調だったからなのに。
昨日、しおりを置いてまで部長と奈々先輩を追い掛けて聞いたのは部長の不調の原因。
部長は先日から腰痛があったようだ。
体を反らしたりするのが苦痛らしい。
ただそれは軽いようで、決勝には出られそうだから他の選手には秘密にしてほしいと言われた。
部長はチームの要なのだから、出られないとなるとチーム内に衝撃が走る。
今日も部長がベンチに座る理由は、決勝へ向けて控え選手の調整のためとしていた。
昨日、部長はその場で事情を聞きたがった俺を諌め、夜になって電話でそれを説明してくれた。
監督と奈々先輩は昨日の試合中に気付いた。
だけどチームメイトはそれを見抜けなかった。
気づいてないやつらは俺を目の敵にし、
監督と奈々先輩と部長だけが俺を評価してくれた。
俺はそれでもよかったんだ。
だけど、俺のプレイで11人のチームに亀裂が走ってしまった以上、ここで続けることは難しい。
俺がベンチに引っ込むのが得策だ。
それなのに……監督は動こうとはせず、相変わらず俺にパスが回ってくることはなかった。