遠すぎる君
むやみに走り回ったせいか、足首が痛い。
さっき、引っ掛けられた足の方だ。
決勝は来週だから、まぁいけるか。だけど……
ロッカー室に入ったところで、疲労感を感じて思わず座り込んだ俺の前に誰かの足が止まった。
顔を上げると部長だった。
「すまん。」
部長は多くは語らず、一言それだけを告げた。
きっと部長は出たかったのだろう。だけど、決勝に行けるならそこに集中しないといけないほど、腰痛が軽くはないのだ。
「なんとか勝てました。」
「そうだな。よくやってくれたよ。」
調子が悪いことは内緒なので、当たり障りのない会話。
俺は至近距離に誰もいないことを確認して切り出した。
「次は……決勝は……俺を外してください。」
「……え?」
「部長が出られるなら俺は……要らない。」
俺は和を乱す存在。
一丸とならないチームが勝てる訳がないと思った。
今日までラッキーだったんだ。
昨日から考えていた事を淡々と話す。
「今大会、PK以外で得点を上げたのは部長と田中先輩と俺。部長と田中先輩で十分です。」
「準決勝、準々決勝はお前だ、高坂。お前の一点で勝てた。」
「俺がいたらダメなんですよ。みんな不信感いっぱいで。俺も勝手なプレイが多いし。」
部長は眉間にシワを寄せて俺の顔をじっと見ていた。
そして「監督が決めることだ」と言い、出ていった。
俺はそこに項垂れてしばらく座っていた。
そして部長が出ていった戸口から、杉本が心配そうに俺を見ていたのはわからなかった。