遠すぎる君
認められたい
準決勝の夜、会えなかった遼に簡単なメールを送った。
『決勝進出おめでとう!格好よかったよ、フリーキック!来週また応援にいくね!』
メールなら言葉にするのはなんて容易いんだろう。
『格好よかった』なんて直接口には出せないな……
今日は待ってることなんか出来なかった。
昨日の様子もおかしかったし、試合中も辛そうな顔をしていた遼。
それに、私が連日待ってたりなんかしたら皆に冷やかされるだろう。
それでも今日も一応ハチミツ漬けのレモンを持っていったのだけれど。
もうこれは紅茶に入れて飲んじゃおう。
そうしていると、返信が来た。
『来週は俺は出ないと思う。だから来なくていいよ。応援してくれて、ありがとな。』
え?決勝出ないの?
ゴール決めてたのは昨日も今日も遼なのに?
……何かあったんだろうか。ケガ……とか?
辛そうな顔をしてたのはケガしてたから?
そう考えると居ても立ってもいられなくなった。
電話してもいいだろうか。ううん。しよう。
何より、遼の声が聞きたかった。
久しぶりの電話に緊張する。
だけど、その緊張がマックスになる前に繋がった。
スリーコール無かったみたい。
『しおり?』
遼の声だ。さっき、フィールドに居た険しい顔の遼から出たとは思えないほど優しい声。
ホッとした。
「ごめんね。疲れてるのに電話して。」
『いや、大丈夫。今日も来てくれてたんだな。どこにいた?俺、見つけられなかった。』
「うん、端っこからこっそり見てたの。」
クスクスと笑うと遼も「こっそりって……」と笑った。
今日電話してよかった。
「今日のフリーキックもほんとにすごかった!遼ってサッカー上手なんだね。」
「なんだよ、今知ったのかよ~。」
なんて自然な会話。楽しい。楽しすぎる。
「決勝は出ないって……ケガでもしたの?」
「……え?あ、あ~そうじゃないけど……ケガしてた先輩が帰ってきそうなんだ。」
「え?」
「あ~俺、実はその先輩の穴埋めでさ……」
穴埋め。
だけど得点をあげてる今が好調な遼を下ろすだろうか。
そんなにすごい人なのか、その先輩は。
「そんなもんなんだ……ごめんね、何にも知らなくて。」
「知らなくて当然だし。」
「でも、来週見に行ってもいい?なんか、サッカー見てるの楽しいから。」
「お?サッカーの良さがわかってきた?しおりは昔はルール覚えられなくてつまらなそうだったもんなぁ。よかったよかった。」
嬉しそうに過去の私を持ち出す。
でもそんな事でも遼が楽しいなら私は嬉しい。
「もう……ルール多すぎるんだもん……」
「バカの俺でも覚えられるもんなんだぞ。ま、俺はスタメンじゃないけど、交代要員だからちょっとは出番あるかもな。」
「うん。楽しみにしてるよ。」
ここで会話は終わったのにお互い切るタイミングが計れず、どっちが先に切るか言い合った後、最後は「せーのっ」で切ることになった。