遠すぎる君
どうしても打てなかった。
部長が居なくなった今、俺は打たないといけないのに、どうしても足がおかしい。
思った所にボールがいかないんだ。
部長と交代で入った山下先輩や田中先輩に回すことにした。
俺はさらにマークがきつくて思うように動けないし、そっちの方が確実だと判断した。
やっぱり思うところへ蹴ることはできなかったけど、流石は強豪青蘭サッカー部のレギュラー。
なんとかパスが繋がった。
何度かチャレンジしているうちに、山下先輩が田中先輩との連携でゴールを決めることができた。
1-2
あと一点。
時間はわずか。
間に合うのか……
負けるのか。ここまできたのに……
こんな終わりかたでいいのか。
思わず観客席にしおりを探す。
だけど、人が多すぎてさすがに見つからない。
すると、後ろから「高坂」と呼ばれた。
山下先輩は俺を睨み付けている。
「お前、足おかしいのか?」
「…………」
「お前の正確なパスが常に左にぶれてる。」
「……すいません。」
「だから決めないのか。」
俺のパスを何度も受け取っている先輩だからわかったのだろう。
「もう時間がない。チャンスがあればお前も打て。回すからな。だけど……無理だと思ったら今すぐ降りろ。」
そう言うと戻っていった。
こんな残りわずかな試合で交代は出来ない。
部長は……無理だろう。
痛む足を見ながら一つ息を吐いた。
そして、山下先輩の背中を見つめた。
『チャンスがあれば打て』
その言葉は俺の背中を押した。