遠すぎる君
心臓が飛び出しそうなほどバクバクと音をたてている。
まさか周りに人がいるなんて思わなかったし、
それが、たった今思っていた人だなんて。
しかも一人言聞かれてたし……
恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。
心臓を押さえながら、ただ俯いていた。
恥ずかしいのとビックリしたのと、……あとはなんて声を掛けたらいいのかわからなかったから。
上手い慰め方がわからなかったから。
ただ、黙っているしかなかった。
私たちはまっすぐ整備されているフィールドを見た。
目の端に映る遼は悲しそうでも悔しそうでもなかった。
だから気を楽にして気になったことを聞いた。
「…………閉会式は?」
「あ?あぁ……あっちでやってる。」
と、建物の奥を指差した。
「え?じゃなくて!出なくていいの?」
「いいよ。足、こんなだし。」
と、次は自分の右足を指差した。
その足首には湿布が貼られている。
「ちょっと捻ったみたいだな。」
「だ、大丈夫なの??」
オロオロしている私を見て、柔らかな笑顔になる遼。
「大丈夫。すぐ治る。」
「そんな……!あ、だから辛い顔してたの?」
すると遼は驚いて「俺、辛い顔してた?」と聞くから、
「辛いというか、もどかしい……みたいな。でも最後は楽しそうだったよ!あれ?でも痛くなってきたのは最後の方なんでしょ?」
使えば使うほど足の痛みは増す筈なのに、最後が痛くなさそうなんて、どう考えてもヘン。
自分で言いながらおかしいな?と思うけれど。
遼はそんな私に「そっか~。俺、楽しそうだった?」と笑うから、私も
「うん、凄く。」
そう言って笑った。
しばらく二人でそうして笑っていたんだけど、その内笑いを止めた遼は、何かを思い出したように辛そうにこう呟いた。
「俺、しおりを全国に連れてってやりたかったんだけど、無理だった。」
突然、何を言われたかわからなかった。