遠すぎる君
私を全国に?
他校の私を?
遼の真意が知りたいと、じっと見つめていた。
遼は広げた足の膝の上に両肘をつき、手のひらを合わせた。
「中学の時、そう思ってた。彼女が出来たせいで負けたなんて言われて、俺は『そうじゃない』って証明したかったんだ。結果を出して堂々と付き合いたいって。誰にも何にも言わせないって。」
「遼……」
「中学でしおりと距離を取ってまで打ち込んだのにそれができなくて、悲しい思いをさせただろ。だから高校に上がってからも一心に上を目指してやり遂げることが出来たら、それが贖罪になると思ってたんだ。」
贖罪
そんな罪の意識に捕らわれていたなんて。泣きたくなった。
遼は私に罪の意識しかないのだろうか。
会いたかったのは、試合に来て欲しかったのは、私に会いたいからじゃなく私に許しを乞いたいから……?
胸元にあるネックレスを掴む。
私と遼の心の距離に、胸が苦しい。
「だけど、違ったんだな。俺は何やってんだろう……
俺は、ただ俺を認めて欲しかった、ただのガキだ。」
私は顔をパッと上げた。
いつの間にか遼の両手はきつく握られていた。
遼はその両手で作った握りこぶしを額に当てた。
「しおりにひどい態度して遠ざけときながら、俺は勝手に傷ついて、ひたむきにサッカーに向かってれば強くなれる。強くなって結果を出せば、しおりはまた…………好きになってくれると……」
遼の声が震えている。
「……でも、俺は……今回も、結果を出せなかっ……」
「……遼」
私はいたたまれずに項垂れていた彼の頭を抱き寄せた。
彼が静かに泣いていたから。
今日のMVPに近い働きをした彼が、今、女の前で泣いていたから。
「……ごめん。しおり、……ごめん」
「遼」
「お、れっ……こんなんで……っ」
抱き寄せても頭しかもたれ掛かろうとしない遼を、さらに強く抱き締めた。
「遼は、凄かった。この2年間、ううん!もっと前から頑張ってるの、知ってた!全然無駄じゃなかった!ほんとに凄いと思ったんだから!」
「でも…………勝ってしおりに言いたかった。」
そう言うと私から逃れ、乱暴に二の腕で顔をぬぐった。
「勝って、……『好きだ』って言いたかった。」