遠すぎる君
共に前へ
「退部したんだって?」
松井は最近、俺に話しかけてくるようになった。
しおりにとっての見方か敵かで態度が変わるんだろう。
「3年引退したんだからエースなんでしょ?」
「うーん。足がね……無理すると歩けなくなるよ~って医者が脅すから。」
「すぐ治るでしょうよ。バカなんだから。」
職員室でばったり会い、松井と歩きながらの会話。
俺の足は、安静ではないけれど激しいスポーツはやめといた方が……という診断だった。
だから、退部届けを顧問に提出した訳で。
「ま、それに俺は今から頑張らないと進学できねーし。」
「えっっ!?進学する気あったんだ??」
失礼極まりない。
「サッカーで身を立てるつもりなんだと思ってた。ま、そっちも無理そうだけど。」
…………まあ、いいけど。当たってるけど。
「で、どこ進学するの?」
「え?まぁ………ハハハ」
「……どうでもいいけど、勉強なら慎一に教えてもらったら?」
誰だよ、慎一って。
「特進クラスだよ~。しおりを東高に入れた敏腕教師だよ~。」
「あ?永沢か……それなら大丈夫。俺には最強の家庭教師がついてるからな!」
ピースを出してにかっと笑うと松井は「あ~ぁ。なるほどねぇ。…………その調子だと絶対落ちるわ。」
そう捨て台詞を吐いて、帰っていった。
「落ちねーし。絶対落ちねーし。」
聞こえないように呟くのが今の俺では精一杯。
それくらい俺は成績が悲惨だったから。