遠すぎる君

少々落ち込みながら昇降口へ向かうと、バタバタと後から走ってくる音が聞こえた。

「あっっ!おい!このヤローっ!」

後ろからいきなり羽交い締めにされた。
その拍子によろける。

「あっぶねーだろっ!なにすんだよ!」
それでも手加減があったのがわかる。
こいつは俺の足を労っているんだ。

「あ……あぁ!?お前、なに退部するとか言ってんだよ!」
「…………引退だよ。」
「お前まだ2年だろうがっ!美味しいとこ持ってトンズラすんな!」

俺の足首をチラチラ見ながら怒鳴っている。
心配しながら怒ってる様子がありありと見て取れて、思わず吹き出した。 

「お前が引っ張ってけよ、新部長。」
「……なっ……!」
「俺はもう足に爆弾抱えてるからな。後ろの筋も痛めてるし。」
「だけどっ!短時間なら!それにマネージャーやコーチでも出来るじゃねーか!」

「コーチって……コーチもいるじゃねーかよ。俺、采配もできねーし、がむしゃらにやるだけだし。マネージャーやるほど世話好きでもないし。」

杉本は黙った。黙ったまま恨めしそうに俺を睨んだ。

「俺は次の夢に進みたいんだ。」

そう言うと、杉本は悲しそうに俯いた。

「お前とプレイすんの、楽しかったのに……」

俺はそう言ってくれるだけで満足だ。
杉本を見てると俺もちょっと込み上げてくるものがあった。
それをなんとか押し止める。

「まぁ……また、遊びのサッカーならいつでも付き合うぜ。」

「……ちっ……」

舌打ちをすると靴を履き替えて部活へと走っていってしまった。

俺は、恵まれてたんだな。
チームメイトにも友人にも。

そして彼女にも。

…………しおりに会いたい。

そう思って外に出た時、「高坂くん」と呼ぶ人が壁にもたれていた。
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