遠すぎる君
前を歩くのがしおりだとすぐにわかった。

しおりと母親の周りにはプチ人だかりが出来ていたから。

卒業とはいえ、ほとんどの生徒がそのまま青蘭の高校部に上がる。

今日で最後なのはしおりと数名。

親同士も今日で最後って訳だ。

しおりは誰とも目を合わせてないが
堂々と受け答えをしている。

いろいろ聞かれてるんだろうな。

俺はしおりを呼びに行こうと足を早めた。

すると横を誰かが通りすぎ
「中田さん!おはよ!」

永沢だった。

「クラスまで一緒に行こ!」

明るくそう言ってしおりを呼び寄せ、
その輪から抜け出させ
二人で歩いていった。

しおりはホッとしたような笑顔を時おり永沢に向けている。
永沢も極上の笑みを向けていた。

しおりを助けるのは俺じゃなかった


俺って…
なんでこんな最後の時まで自己チューなんだろう。
誰がしおりを助けたっていいじゃないか。
しおりが笑ってるならいいじゃないか。

そう思ってしおりと別れたはずなのに
俺の心の中はどす黒いもので一杯だった。
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