遠すぎる君
俺の彼女はメチャクチャかわいい。

中三にしては落ち着いていて、
こっちまで幸せになっちゃいそうな
ふんわりした笑顔。
どんなに友達と悪ふざけしていても品があって
友達に見せる思いやりは深い。

小さめの口もかわいい。
奥二重から覗く瞳は澄んでる。

サッカーだけの俺とは違って
勉強だってできる。

立ち居振舞いは本当に天使みたい。

これって欲目って言うのかな?


サッカーがやりたくて
スポーツ受験枠を使ってこの青蘭に中学から入った。
一年の頃はそりゃもう
ものすごい数のサッカー部員がいた。

先輩からの苛めなんかが酷くて
やっと1年の半数が辞めていき、
それでも全然練習のメンバーにも入れてもらえなくて
基礎練とボール磨き、フィールドの整備。
そして先輩のマッサージ。

部活が終わってから必死で自主練をして
一年が終わった。

後輩が入ってくると
先輩たちのいじめの対象が後輩たちになり
ボール磨きや整備、マッサージからも解放。
ようやく自分にも練習に打ち込む余裕ができた。

そうして周りを見回すと
クラスのメンバーも変わっていて

そこに天使を見つけた。

中田しおり

クラス替えして2ヶ月ぐらいだったと思う。
すっかり忘れていた日直の日誌を取りに行ってくれていて
その日誌を渡しながら
「今日は高坂くんと私だよ」
と笑顔のしおりを見たとき

心臓がドキドキして目を合わすことができなかった。

それから
サッカー部のレギュラーを勝ち取るために
部活に専念していたけど
教室にいるときはしおりから目が放せない。

好きなんだ…

初恋と自覚したのはレギュラーを勝ち取った
中2の夏の終わりだった。

サッカー部のレギュラーになってから
なんでか告白されるための呼び出しも何度かあって
それをクラスのやつらに冷やかされる度に
心の中で舌打ちした。


中3になっても同じクラス。
心の中で「よっしゃ~!」とガッツポーズ。

しおりと同じ体育委員にも立候補してみた。

そして何度か一緒に下校したときに
我慢できず、フラれることも考えずに言ってしまった。

「好きなんだ」

メチャクチャ恥ずかしかったけど
彼女は俺の大好きなあのふんわりした笑顔で応えてくれた。

もう俺は有頂天だった。

1年温めてきた想い。
ずっと触れたかったしおり。

草食系だと思っていた俺の欲望は留まらず
付き合って間もなく
しおりの柔らかな唇に触れたときは

もう死んでもいいかも…

なんて訳がわからなくなった。

ずっと傍にいたい。
しおりに触れたい。

毎日増幅する気持ちを抑えて
普通に接するのが本当に苦痛なくらいだった。

そんな幸せな時間が俺のせいで突然終わるなんて
その時は考えもしなかった。






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