遠すぎる君
最後に教室に来るかもという期待を胸に

俺は後輩からのプレゼント攻撃をそこそこに
教室に逃げてきた。

静まり返った教室にはもちろん誰もいなくて
プレゼント含む自分の荷物をドカッと自分の席だった机の上に置き
椅子に座ってじっと黒板を見つめた。

今日で最後。

もう会う予定がない。

俺は何を期待してるんだろう。

バレンタインチョコの下に置かれていたカードの意味。

まだ想ってくれていた、俺を。

ぐちゃぐちゃの気持ちで眉間にシワがよってるのがわかる……

そのシワを伸ばそうと右手を挙げかけて
入り口に彼女が立ってるのに気付いた。

彼女が教室に来ることを期待していたのに
いざ彼女を前にすると、言葉が出てこなかった。

しばらく見つめあっていたら

やっぱりきっかけをくれたのは彼女だった。

それからは目を合わせずだと
他愛もない話を自然にできた。
でも

「サッカー頑張ってたもんね」

その言葉に体が強張った。

確かに俺はやりきった。
サッカーばっかりだった。

しおりとの時間を犠牲にして。

ほんとは時間はあったはずなんだ。
メールや電話ぐらいの時間。

俺はただ切羽詰まっていて
サッカーだけに向ける情熱が
自分を上達の高みへと連れていってくれるような気がしていただけなんだ。

自分の器の小ささを責められたようで
無言になった。

でも言わないといけない。
今まで黙ったまま時間が過ぎていった。
今言わないと、その時間も今日で終わってしまう。

「高校でもサッカーやるんだよね?」

しおりはわかっている。
また同じ時間が過ぎることを……

無言の圧力でしおりを振り回してきた時間が

やっぱり好きだとはやっぱり言えなかった。
やり直そうとは言えなかった。

おれはきっと同じことをする。


応援すると言ってくれた。
だったら俺はとことんその道を進もう。
この一年を、しおりの気持ちをきっと
無駄にはしない。

「元気で…」


しおりを解放しよう。
それがしおりへの精一杯だった。












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