遠すぎる君
次の日、


部活を終えた私は岸田先輩と一緒に帰った。

真紀ちゃんが

「しおりちゃん、帰ろ~」って言ってくれたところ、
「悪いけど中田は今日は俺に付き合ってもらうから。ごめんな~」

と私の鞄を脇に抱えた。

「え?なんで?私も行く~」

真紀ちゃんが腑に落ちない様子で私たちを遮る。

「ダメダメ!今日は中田だけ。
また今度おまえも連れてってやるから。」

どこにですか~!
という真紀ちゃんを残して岸田先輩は私の腕を引っ張った。

真紀ちゃんに
ゴメンね!って謝って先輩の後を付いていく。

真紀ちゃんの後ろに高野先輩や景子先輩もポカンとして座っていた。

「先輩、真紀ちゃんも一緒じゃダメなんですか?」

と、付いていきながら聞いてみる。

先輩は足が長いから早足だと追い付くのが大変。
軽く息切れしてきた。 

先輩は足を止め、クルッとこちらを向いた。

あ、止まった。よかった。

「俺と二人じゃダメか?」

置いてきぼりの子供?みたいな顔をして尋ねる。

そういう顔に弱いんだよなぁ……
とぼんやり思っていた。

「もう昨日祝ってもらったんだろ?
俺は一日遅れだけど
俺だけで中田の誕生日を祝いたい。」

なんともストレートな言葉に黙ってしまった。

なんてすごい人なんだろう。

遼にこの半分でも言葉をもらえたら……なんて検討違いの事を考えてしまった。

「ダメなのか?」

ハッ!今、前にいるのは先輩だった!

「いえ!大丈夫です。」

って何が大丈夫なんだろうか……
自分で突っ込みながら一緒に駅へ向かった。

岸田先輩が向かったのは駅前のかわいいパスタ専門店。

「ちょい時間早いけど、ここでいいか?
パスタ食べたいって言ってただろ?」

昨日の帰りに確かにパスタの話をした。

私はいつもお母さんがパートをやってる弁当屋さんの残りを食べることが多いし、
たまに作ってもお母さんとは時間が合わないから伸びてしまう麺類は避けてたし。
外食も節約のために殆どしない。

「……嬉しいです。」

岸田先輩は私の事情ももちろん知っていて
(部員はみんな知ってるけど)
ちょっとした私の言葉を理解してくれて。

素直に喜べた。

その日のパスタは
岸田先輩の楽しい話と
イケ面でお気に入りの可愛いスマイルとで
より美味しく感じた。

セットについてるデザートとコーヒーが運ばれてきた。
コーヒーはうちの喫茶店が勝ってるな……

「このお店、よく来るんですか?」

「まさか。景子に聞いた。あいつら来ないだろうな……」

とキョロキョロ店内を見回している。

店内は女性が多い。女子高生もけっこういる。
岸田先輩はイケメンだからか
いろんな人と目が合った。

なんだか優越感。

「先輩たちと一緒でもよかったですよ?」

バカをいうな!と一喝された。

「高野と景子とこんなとこ来て見ろ。
高野は景子と一緒だし、かわいい店に緊張していてダンマリだろ?
そこに景子が『なんとかしろ!』って睨んできたりして何食べたかわかんなくなるぞ!
部室だけで十分だよ……」

と溜め息をついた。

「相当、苦労してるんですね……」

労いの言葉をかけた。

「わかってくれる?俺の辛さ……」

「はい…ククッ」

思わず笑ってしまう。

困ってる顔も可愛い。

笑ってる私をじっと見て
「俺を解放してよ。」

「え?」

「んーん。何でもないよ。よし、帰ろう。」

ちょっと照れたように見えた先輩は急に席を立ってレジに立った。

私のコーヒー残ってるのに。

いつも突然だなぁ…と思いつつ、慌てて後を追う。

「御馳走様でした。」

「一日遅れでごめんな。」

「いえ……昨日、そんなつもりでクッキー持ってった訳じゃなかったんですけど。
こちらこそごめんなさい。」

「わかってるよ。」
ニッと笑った。

店を出ると少し暗くなっていた。

二時間も店に居たことに気がついた。
楽しい時間は早く過ぎるんだね。

「送ってくわ。」

「いや、すぐそこが駅なんですから!」

「暗くなるし。俺の気が済まないから。」

私の気が済まないんですけど……
と言おうとしたんだけど、先輩はすでに歩き始めていた。

なんか最近、岸田先輩を追いかけてばっかな気がする。
< 53 / 136 >

この作品をシェア

pagetop